第10話 羽毛と綿と布団
僕とユウラは山に狩りにでかけた。集落の家はユウラが修繕してくれてかなりマシになっている。
雨漏りや隙間風で悩まされることもなく、夜はきちんと眠れるようになったらしい。
それはよかった。で、終わりじゃない。家はよくなっても家具や布団がまだ足りていない。
布団は薄くボロボロで、冷え込むと本当に寒いからこれも改善しなきゃいけなかった。今からとりにいくのは綿、羽毛だ。
「狙うのは綿が採れるジャウール、羽毛はコカトリス。どっちもハンターウルフより危険だから気をつけないとね」
「大丈夫」
最初は「うん」とか無言だったのに最近は返事をしてくれて嬉しい。戦闘面においてはユウラのほうが遥かに適任だけど、僕も負けてられない。
僕は刃魔石で作ったショーソードを片手に持って、ユウラは爪。山を分け入っていくと、茂みがガサリと動く。
「アギャギャギャギャ!」
「ギャーギャギャギャ!」
「ゴ、ゴブリン!?」
ゴブリンが数匹、茂みから頭を出した。
躊躇なく襲いかかってきても、ユウラがあっという間に数体まとめて斬り裂く。さすがだな、と思うけど――。
「ゴブリンなんか出るんだなぁ……」
「どこかにたくさんいる」
ユウラの言葉が正しければ、どこかにゴブリン達の巣か何かがあるのかな。
だとしたら放置しているのはまずい。ゴブリン退治を本気で考えないといけないし僕自身、もっとがんばらないと。
「ユウラはなんでそんなに動けるの?」
「鍛えた」
「そっか……やっぱりそうだよね」
僕が魔石術について考えて知識を身につけたように、ユウラもがんばったんだろうな。よし、本当に負けてられないぞ。
* * *
今度は僕達が茂みに隠れて、ジャウールの背後を取っている。
あのモコモコとした毛のせいで剣なんかが通りにくくて、おまけに力もある魔物だとユウラが教えてくれた。
ユウラが飛び出してジャウールの足を切り裂いて、態勢を崩した。
「重魔石……生成、首輪!」
地属性の魔石の中でも一番重い重魔石の首輪をジャウールに生成した。
今のところ、止まってる相手ならこんなこともできる。ジャウールは重さに耐え切れなくて、地面に突っ伏した。その間に僕達はモコモコした毛を採取する。
「ごめんね。終わったら解除するからさ」
「終わった」
離れてから生成した首輪を解除した。
僕が生成したのなら自由に加工できる。首輪がぱかっと割れた瞬間、僕達は全速力で逃げた。
討伐してもよかったんだけど、食べないし生かしておけばまた毛皮が採れる。
生き物も限られているから、できるだけ無駄にはしたくない。逃げて逃げてようやく振り切ったところで息を切らした。
「ぜぇ……ぜぇ……一生分走ったかも……」
「次」
相変わらずユウラは平然としていて、ほとんど汗をかいてない。
次ね、次。コカトリス、これも危険な魔物だ。クチバシや爪に石化する毒があるから、絶対に攻撃を受けちゃいけない。石化したら誰も治せないからこれも命がけだ。
「集落に治癒師が必要だなぁ」
「舐めれば治る」
「ユウラだけだと思うよ……ひゃっ!」
ユウラに突然、手を取られて舐められた。よく見たら枝か何かで擦りむいたのか、傷がある。
「あ、あ、ありがと……」
「もっと?」
「い、いやもういいよ! たぶん治った!」
「よかった」
す、すごいドキドキしてやばい。足元がおぼつかなくて、転びそうになる。いきなりすごいことしてくるなぁ。
「コカトリス」
「あれか……意外と小さいね」
コカトリスは翼がないから、地面に近いところに巣を作る。遠くから確認すると、二匹が巣の周りにいた。飛べない代わりに足が速くて素早いと聞いている。
「ここからならこれでいける……。生成、突魔石……スピアッ!」
コカトリスの足元から槍が飛び出してきた。不意を突いた甲斐があって、コカトリスが串刺しになる。
少しの間だけ待ってみて、死んでいるのを確認してから近づいた。
コカトリスは気性が荒く、一度でも獲物を見つけるとしつこく追いかけてくるから討伐したほうがいいとユウラは言う。
それに肉も食べられると聞いたから一石二鳥だ。あの断片的な話し方からここまで要約して理解した僕を誰か褒めてほしい。
「羽毛や肉に毒がないのかな?」
「ない」
ユウラがここまできっぱりと言い切るなら信じよう。
なぜか魔物にも詳しいし、本当によく勉強している。僕は魔石のことでいっぱいだったから、有名な魔物しかわからない。
この日、僕はコカトリスの解体作業をユウラから教わった。魔石術だけじゃなく、こういう知識を知るのも楽しい。
* * *
コカトリスとジャウールから採れた素材を集落のお姉さんやおばあさん達に渡した。
おばあさん達は昔、布団や服なんかを作っていたらしくて久しぶりに腕が鳴ると喜んでいる。
使い古した布団から綿を取り出して、新しい羽毛や綿を入れる作業に取り掛かっていた。
「任せな! こいつでいい布団を作ってやるよ!」
「たくさんあるので皆の分も作ってほしいんです」
皆が一斉に作業に取り掛かった。布を縫いつける魔道具がかなり古くて、動くたびにガタガタいってる。
おばあさんが生まれる前からあった年代物と聞いて感心しちゃった。ということは僕が生まれる前から働いてるのか。
魔道具を撫でようとして手を伸ばした。
「うん、えらいぞ」
「コラッ! 危ないから手を出すんじゃない! 怪我するよ!」
「ご、ごめんなさい」
怒られちゃった。でも嫌な気分にならないし、なんだか暖かい。怒られてこんな気持ちになるのは初めてだった。
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