第9話 冷凍と冷蔵

 前から冷蔵庫と冷凍庫を作ろうと計画していた。バソの実は常温でも保存可能だけど、他の野菜なんかはあまり長時間保存しておくと腐る。

 冬の備えとして備蓄しても、いつもは腐りかけのものを食べてお腹を壊していたと聞いた。

 いつもみたいに集落の人達に聞いて回って情報収集をしてわかったことだ。まだ狩りに行く人達がいた頃、肉類は乾燥をさせて保存していたみたい。


「リオ」

「あ、ありがとう」


 魔石工作室で設計図を書いている時、ユウラが水を持ってきてくれた。どうもあれ以来、怯えてしまう。

 僕の様子をうかがってチラチラとこっちを見ているし、今か今かと持ってくるタイミングを見計らっているみたいだ。

 こういう時、僕はユウラにお願いをする。


「ユウラ。これが食料保存庫なんだけど、必要な木材を持ってきてくれる? これとこれなんだけどさ……」

「わかった」


 跳ねるようにユウラは歩いて部屋から出ていく。

 さて、食料保存庫に必要なものは冷魔石だ。それともう一つ、冷気を閉じ込めておくために防冷魔石だ【冷】の耐性を持つこれで冷蔵庫内を覆えば完成する。

 

「各家に一つは欲しいよね……」


 これが完成したらおじいさん達、喜ぶだろうな。そう考えると誰かのために何かをするということは本当にやりがいがある。


「リオ、これ」

「早いね。ありがとう」


 ユウラが戻ってきて、製材した木材をたくさん持ってきてくれた。

 さっそくトンカチと釘を使って組み立てると、キッチンに置いても邪魔にならない大きさになる。

 二つ縦に連なった箱になっていて、上が冷蔵庫で下が冷凍庫だ。


「生成……防冷魔石。コーティング」


 最初に小さいドアを防冷魔石で作って取り付けてから、開け閉めして確認する。

 次に箱の内側に加工された魔石が張り付くようにして生成した。後は冷魔石だけかな。

 食料を凍らせるならレベル二だけど、冷蔵ならレベル一でいい。


「リオ」

「うん?」

「どう作ったの」

「あぁ、家にいた頃に使っていたものを参考にしたんだよ。こうやってイメージできるものなら作れるけど、複雑な仕組みのものは作れない」


 だから壁とか剣、槍みたいな把握しやすいものしか作れない。もっと僕に知識があったら作れるんだろうけど、今はこれが限界だった。

 それでもユウラは僕の魔術を珍しがっている。


「僕は全属性の適性がないし、代わりに刻まれていた適性は魔石術だったんだ。属性魔術以外の魔術は珍しいんだけど、家族には気に入られなかったよ」

「……そう」


 ユウラも適性がなくて家を追い出されたんだっけ。

 僕から色々と話すことでそのうち話してくれるようになるかもしれない。

 今はユウラが僕の魔術を物珍しく見てくれているし、ささやかな幸せだった。


「生成……冷魔石」


 青白い魔石を冷蔵庫の中に置いた。魔石から漏れるように放たれた冷気が冷蔵庫内を満たして、ひんやりと気持ちがいい。


「うん、ちょうどいい」

「涼しい」

「わっ! あ、手を入れたかったの?」

「ひんやり」


 ユウラが目を細くして気持ちよさそうだ。確かに暑い時には心地いい。


「さ、次は冷凍庫。生成……冷魔石」


 下の段に作り出したのは冷魔石レベル二。こっちは涼しいなんてものじゃなくて、ずっと入れていたら僕の腕だって凍る。だけどユウラはまた手を突っ込んだままだ。


「凍っちゃうよ」

「ひんやり」

「そ、そう」


 ユウラは少しの間だけそっとしておこう。その間に僕は冷蔵庫と冷凍庫に保存する食料を持ってきた。

 今までは集落の皆で共同で使っていた食料保存庫を使わせてもらっていたけど、これは地味に不便だ。

 いちいち外までいかないといけないし、ネズミなんかが侵入して食い荒らされることもある。そして例によって老朽化してるから、崩れる危険もあった。


「ガルフやバーストボアの肉なんかは切り分けて冷凍庫に保存しておこう。おすそ分けしてもらった野菜は冷蔵庫でいいかな」

「ひんやり」

「いや、もうさすがにどいてほしい」

「ぶー」


 ぶーとか言われても。さっそく肉をナイフで切って、次々と冷凍庫へ入れる。

 ついでに野菜も細かく切って、一食分ごとに分けておこう。


「こっちは採れたてだから後で食べるとして、先にこっちを食べないと腐るかも……。日付で管理したほうがいいかな?」

「細かい」

「そう? このくらい管理しないと後で困るから普通だと思うけど……」

「おいしければいい」


 ユウラは大雑把なのかな。戦い方も豪快というか、シンプルだから少し性格に通じるところがある。

 でも家を修繕したりとか、細かいことが苦手なわけじゃないと思うけど。料理だって出来るし、まぁ誰でも不得意なことはあるよね。


                * * *


「れ、れいぞーこにれいとーこ、だと……」


 おじいさんに聞いたところ、普通に買ったらとんでもなくお金がかかるらしい。

 王都を始めとした大きな町で、中流家庭なら当然のように持ってるアイテムだ。

 でもこういう田舎のほうだと、そういう便利なものはほとんどない。だから集落の人達には未知のアイテムに見えたみたいで――。


「ひぃぃ! ちべたぁっ!」

「こ、これは手が凍りつくかもしれない!」

「こんなところに食べ物を入れていいのか?」


 こんな風に最初はすごい戸惑っていたけど、がんばって説明すればわかってくれた。

 水事情に続いて食料保存の心配がなくなったおかげで、皆からもみくちゃにされるほど感謝される。


「リオ! お前ってやつは!」

「リオ君、素敵!」

「ぎゅむっ!?」


 特にお姉さんの弾力がすぎすぎた。ふと視界に入ったのはユウラだ。

 リスみたいに頬を膨らませて睨んできて怖い。どうしちゃったの? わからないけど、後で謝ろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る