第5話 集落の水回りとリオの家事情
行く当てがないから、思い切ってここに滞在することにした。
もちろんただで住むわけじゃない。困ってる人達を見捨てておけないから、僕にできることをやってみようと思う。
そのために集落に定住するために僕は自分の家を作ることにした。家作りはよくわからないけど、集落の家を参考にしてユウラに材木を用意してもらうよう頼んである。
それに集落の人がアドバイスをしてくれるみたいだし心強い。まずリビングは絶対ほしいな。
ロシュフォール家では屋敷から追い出されて物置きに押し込まれたから憧れがあるんだ。
お客さんが来た時にもリビングに通して、リラックスしてもらう。それからキッチンとお風呂、洗濯用魔道具。寝室、そして魔石工作室もほしい。
魔石は魔術で作り出せるから部屋なんているかな、と思った。でも将来、資料を買い込むとしたらここに置いておきたい。
「リオ」
「うん。用意してくれたんだね。ありがとう」
ユウラが材木をまとめて運んできてくれた。
それはいいんだけど、これから建てるとなるとちょっと時間がかかるなぁ。
それに僕は力仕事が苦手だから、ユウラなしじゃ家を建てられない。
「ええと、ここをこうして……」
「リオ」
「わっ! なに?」
「部屋、もっと広く」
「ど、どういうこと……。もしかしてユウラも住みたい、とか?」
無言で頷いた。確かにユウラも現時点で住むところがない。
ユウラは僕より先に来て、おじいさんのところに居候させてもらっていたみたいだ。
いつまでも居候というのも嫌だろうな。ん? それなら僕と一緒に住むのは?
と、思いついたところで視界に集落の人が映る。辛そうに水を汲んで自分の家に向かっている。
「そうか……。こんなことやってる場合じゃない」
アドバイスを受けながら僕なりに設計図を書いて睨めっこしていると、ふと気づく。やっぱり自分の暮らしばかり充実させちゃダメだ。
この村は水を汲むのも苦労している。風呂にしても、川と家を何度も往復してようやく沸かしているらしい。
井戸を掘るのが普通なんだろうけど、僕は思い切って各家で給水できるようにしようと考えた。そしてすぐに集落の人を追いかける。
「すみません! 水回り、何とかさせてください!」
「……は?」
「水汲みしなくてもいいように水魔石を使います」
「え? も、もしかしてこれも解決できるのか?」
おじさんは何度も瞬きした。
集落の家には当然、キッチンなんてない。共同炊事場を利用しているから、どうしても待ち時間が発生しちゃう。
それを解決するなら各家にキッチンを作ればいい。
「生成……水魔石、レベル一。生成……海魔石、キッチン」
海魔石は【水耐性】があって腐食なんかも防ぐ。
これでキッチンを作った後は水魔石をシンクに入れた。
僕が知ってる知識じゃそこまで立派なキッチンはできなかったけど、役割は果たせるはず。
「これが水魔石か? わっ! 水が出てきた!」
「その名の通り、水が出てきます。ただし普通の水魔石と違ってただ垂れ流すだけじゃなく、循環してくれるんです」
「循環? というと……」
「水が汚くなっても水魔石に取り込まれて、また綺麗にして出してくれます。これは今じゃほとんど採れなくなっていてかなり貴重な魔石です」
水が汚くなることも、溢れることもない。
これをお風呂に入れておけば、いつでも入ることができる。
火魔石をセットして少し工夫すれば、常にお湯が張ってあるお風呂の出来上がりだ。もう何度も水を汲む必要がなくなる。
「し、し、信じられない! 夢みたいだ! 水が、水がこんなに近くにあるなんて!」
「これで苦労も減るはずです」
「き、君は本当になんて奴だ! ありがとう! ありがとう!」
手を強く握って何度もお礼を言われた。この後、僕は各家を巡って同じように設備を整えていく。
「リオ君! 助かったわ!」
「ぎゅむっ!?」
集落のお姉さんに抱きしめられてちょっと苦しい。よっぽど嬉しかったのか、風呂に入ろうとしていきなり服を脱ぎ始めた。
「リオ君も一緒にどう?」
「え、ええ、遠慮しますっ!」
慌ててお姉さんの家を出た。ビックリしたぁ。どうしちゃったんだろう?
きっと嬉しすぎて舞い上がったのかもしれない。そうじゃなかったらあんなこと言わないよ。
気を取り直して、最後の一軒はおじいさんの家だった。
僕が作り終えると、おじいさんは感心して飲み物を出してくれた。
「……リオといったか。お前さんはとてつもない魔術師だ。師匠の名は?」
「そ、それは……」
「まぁええか。あのユウラも、自分のことは話したがらん」
「そうだったんですか……」
ユウラも別の場所から来たみたいだけど、確かに何か事情がありそうだ。
自分のことどころか、ほとんど話をしたがらない。
ちょっとというか、かなりとっつきにくいけど不思議と一緒にいて疲れない。それどころかなんだか落ちつく気がした。
「リオ」
「ユウラ、どうしたの?」
おじいさんの家の入口からユウラがなぜか顔を半分だけ出している。普通に出てきたらいいのに。
「家、できた」
「え? だってさっき材木を集めたばかりじゃ」
「できた」
「……わかった」
聞くより目で確かめたほうがいい。
向かってみると、本当に木製の立派な平屋が完成していた。ユウラが家の前で見よと言わんばかりに両手を広げている。
「す、すごすぎる……。これ一人で建てたの?」
「入る」
ユウラに突然、手を握られて慌てた。や、柔らかいなぁ。と思ったけど痛い!
「いたたたっ! わかった! 見るから手を離して!」
家の中に入ると、そこは立派なリビング。まだ家具はないけど、そこそこ広いスペースでくつろげそうだった。
同じくまだ備え付けていないキッチンや風呂、そして魔石製作のアトリエもできている。
「すっごいなぁ……」
「こっち」
最後にユウラが案内したのは寝室だった。ベッドなんかはまだないけど、寝室にしては広すぎる気がする。
「ここで寝たら気持ちいいだろうなぁ」
「うん」
「ユウラ、何してるの?」
「広い」
ユウラが床にごろんと寝転がって両手を広げている。え、どういうこと?
確かに広いけど、もう部屋はここしかない。ここが寝室だとしたら。
「こ、ここにユウラも寝るの?」
「うん」
あれ、いいのかな?
お父さんとお母さんは一緒の部屋だったけど、こういうのって普通なのかな?
よくわからないけど、あまりよくない気がする。でもこの家を建てたのはユウラだし、拒否するのは失礼だ。別に一緒に寝るくらいはいいか。
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