第6話 ロシュフォール家の困惑

「リオの奴は見つかったか?」

「いえ、おそらくこの町にはいない可能性が高いです……」


 ロシュフォール家は今、大騒ぎだった。あのリオが失踪したのだ。

 ロシュフォール家専属の魔術師どもで捜索隊を結成して町中を探させていたが成果はない。


「フレオール様。いかがいたしましょう?」

「いかがもタコもあるか! 俺の指示がなければ何もできないのかッ!」

「す、すみません! 今一度、くまなく探します!」

「まったく……」


 完全に油断した。あのリオにそこまでの行動力があるとは思わなかったのだ。

 模擬戦で俺の強さを嫌というほど見せつけて、抵抗する気力すら奪ったというのに。

 この屋敷でぬくぬくと育ったお坊ちゃんがどこへ行くというのだ?

 いや、それ以前になぜリオは急に家出をした? わからないことだらけだ。


「フレオール。どうだ?」

「父さん、どうやらこの町にはいない可能性が高いらしい」

「なんてことだ……。従順で馬鹿なガキだと思って油断していた。いや、そもそもどうやって逃げた?」

「リオに魔石に関する本を買い与えていた時期があったな。あれで魔石術を駆使して何らかの方法で逃げ出したのかもしれん」

「おそらくはな。こうなるのであれば完全に失敗だった」


 そう、クソ魔術だとわかっていながらも父さんはリオにできる限りの支援をした。だから資料だけは惜しみなく与えていたはずだ。

 その結果、魔石術とかいうカスみたいな魔術も少しは使い道が生まれるようになったというのに。あのクソリオは恩を仇で返しやがった。


「父さん、魔石の納品はどうする?」

「一度、注文の受付を停止する」

「チッ、リオの奴め。せめて元をとってから消えればいいものを……」

「あ、お二人とも!」


 俺と父さんのところへ執事のバダムがバタバタと走ってくる。こんな時になんだというのだ。


「ちょうどいいところにきた、バダム。魔石の販売を停止する」

「え、そ、それでは……」

「リオがいないのであれば当然だろう?」

「あの、それが……現時点で合計六千の受注を受けておりまして……」

「はぁぁーーー!?」


 思わず声を上げてしまった。こんな時に六千だと! どこのバカがそんな注文を受けた!


「バダム! どうなっている!」

「こ、これは旦那様の指示で……」

「私がか!」

「はい……」

「断れ!」

「それが……」


 バダムが青ざめている。まさかの父さんだと? いや、確かについこの前までリオはまだいたのだ。

 あいつが家出するなど、誰が予想できた? これは仕方ない。問題はこの後、どうするかだ。

 父さんの言う通り、断るのがベターだろう。


「それは非常にまずいかと……」

「何がまずいのだ! リオがいなければそんなもの用意できんだろう!」

「相手は国王、です……」

「……は?」


 俺も父さんも時が停止したかのように微動だにしない。そうだ。思い出した。

 父さんが魔石の販売を大々的に宣伝して、それが陛下の耳にも入ったのだ。質がいいと貴族の間でも評判となったのだから当然だった。

 クソの役にも立たないリオのリサイクルともいうべきか。最初はまったく期待していなかったものの、おかげでいい稼ぎになっていた。

 そこでついに陛下直々の依頼とあって、俺達は大いに盛り上がったのだ。何せこれほど大口の依頼もないのだからな。


「へ、陛下の依頼……」

「はい、つまり断るのはさすがにまずいかと……」

「納期はいつだ?」

「ちょうど一週間後ですな……」

「一週間後だと!」


 ここにきて無茶な納期だとようやく気づいた。

 やるのはあのリオだからと高をくくっていたせいだ。

 受注した後にリオが消えたのだから一つも用意できるはずがない。


「ううむむむむ……」

「ランバルト様、どうしましょう? 仮に今からリオ様を連れ戻したとしても間に合いません」

「あらゆる伝手を利用して魔石をかき集めろ」

「そ、それはまずいかと!」

「納品できないほうがはるかにまずいだろう! どうせ魔石の質などわからん! 数さえ揃えれば陛下も納得するだろうよ!」


 さすがにそれは、と言いかけた。

 俺には魔石の価値も質もわからないが、陛下が見抜けないものだろうか?

 もしバレてしまえば、俺達への信用は地に落ちる。俺は王立エイクラム学園を退学になるかもしれない。

 父さんも第三魔術師団の団長の任を解かれるかもしれない。母さんも学園の理事長を解任させられるかもしれない。

 そうなればロシュフォール家は破滅だ。父さんはそれがわかっているのか?


「と、父さん。やっぱりまずい。あの陛下が偽物を見抜けないわけがない」

「私に引き下がれというのか? この雷獅公と恐れられた男に失敗を認めろというのか!」

「陛下を怒らせたら、俺達なんて地に叩き落される」

「ならばとっととリオを連れ戻せ! できなければ魔石をかき集める!」


 父さんは完全に突っ走る気だ。こうなれば仕方ない。

 ロシュフォール家が総力をあげて、なんとしてでもリオの居場所を突き止める。

 リオめ、俺達に恥をかかせやがって。お前はしょせん魔石製造の道具でしかないってことをわからせてやる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る