第3話 魔石術の強さ
この集落はたくさんのものが不足していた。
集落の近くには森と山脈がある。だから木材は簡単に手に入るけど、井戸がないから水を汲むなら川に行くしかない。
食べ物はわずかな作物だけで、あまり足りていなかった。
おじいさんの話では、昔は鉱山の町として栄えていたらしい。そこではたくさんの魔石が採れていたけど、いつからか採れなくなった。
でも生活に必要な魔道具を動かす魔石は今でも使われている。そう、僕が作らされていた魔石だ。
だけど刃魔石を使った武器なんかは魔術社会になってから見向きもされなくなったと、おじいさんが話してくれた。
「昔は今ほど魔術師の数は多くなかった。それでも様々な魔術の使い手で溢れていたものじゃがなぁ……。いつしか偏った魔術ばかりが認められるようになってしまった」
「そうだったんですか……」
「魔術師が増えるにつれて、剣や槍で戦う時代など過去になりつつある。おかげで魔術が使えない者の身を守る術があまりないのだ」
「ひどい……」
高威力の魔術こそが至高と考える人達が増えていったと、おじいさんは教えてくれた。
そんな感じで、時代と共に忘れ去られた魔石がたくさんある。僕にはそれが悲しくもあり、おもしろかった。
だって裏を返せば、それはまだ可能性が眠っているということだ。皆が見捨てたものに残っている可能性、それは僕の魔術にも関係がある。
だから僕は諦めない。魔石術を研究して、いつかすごいことをやってやろうと思ってる。
父さん達は魔石なんてただの動力としか思ってないけど、絶対にそんなことない。だから魔石について、人一倍勉強したんだ。
いや、魔石だけじゃない。家や物、あらゆるものについて本を読んで勉強したんだ。それが魔石術に何かつながるかもしれないから。
「リオ」
「あ、ユウラ。ごめん、そろそろ行こうか」
「なんじゃ、どこへ行くのだ?」
「皆さん、お腹がすいてると思いまして。ちょっと狩りにいってきます」
まずは飢えをなんとかしようと、僕はユウラと一緒に狩りにいくことにした。
ユウラは僕が狩りなんかできるように見えないのか、体中を観察してきたなぁ。大丈夫。きっとね。
* * *
「ユウラ、武器はこれでいいの?」
「うん」
ユウラに武器を提案したのは僕だ。ユウラは強化魔法しか使えないらしく、それを活かすなら武器は必須だと思った。
そこでユウラが指定したのはなんと爪。両手にそれを装着したユウラがまじまじと見ている。
「どう?」
「うん」
うんだけじゃわからないなぁ。
ところで集落から歩いた先にある山の中には魔物がいる。そこまで遠くないから、いつあの集落が襲われてもおかしくなかった。
おじいさんの話ではついこの前まで警備を雇っていたけど、支払うお金がなくなったせいで出ていっちゃったらしい。
おじいさんや集落の人が若い頃から溜めていたお金だったらしくて、なんだか悲しくなる。
だから本当にあの集落はいろんな意味で限界だと知った。
「ユウラ、待ってよ」
ユウラが自信満々でどんどん先へ進む。無理を言ってついてきたのは僕だからしょうがない。
僕としてはユウラの戦い方が見たいというのと、少しは役に立てると証明したかった。
僕達が強ければ集落の人達は絶対に安心すると思ったから。
「ハンターウルフ」
「来たっ!」
ユウラが呟くと同時に駆ける。
両手に装着した爪を一振りしただけで二匹同時にやっつけた。
速い! 強い! そしてかっこいい!
「ユウラ、すごいね! 攻撃魔術にも負けてないよ!」
何も答えず、ユウラはまた山の中へ入っていく。褒め過ぎて逆に怒っちゃったかな?
それからユウラは襲いかかるハンターウルフを物ともせずに爪の餌食にした。
刃魔石で作ったそれの威力を考えても、強化魔法だけの強さじゃない。
なんというか、動きがすごく洗練されてるというか。
よくわからないけど、ユウラはすごく鍛えている。そんな気がした。
「ねぇ、ユウラ。ユウラはどうして」
「シッ」
ユウラが構えると、前から大きなイノシシがやってきた。前足で地面をかいて、とてつもない迫力だ。
「バーストボア……」
魔物の名前を呟いたユウラは迷わず駆けて、そして跳ぶ。同時にイノシシの突進が始まった。
さすがに避けられるわけもなく、僕は魔石術を使う。
「リオ!」
「生成、硬魔石! ウォールッ!」
地属性の硬魔石。あらゆる【斬】【突】【打】を始めとした物理攻撃に対してかなり高い耐性を持つ。
【斬耐性】【突耐性】【打耐性】といったところだ。
過去には魔道戦車の砲撃を防いだほどで、戦争でも使われていたらしい。だけどあまりに硬すぎる上に重く、加工が難しい。
採掘できる鉱山も限られていたせいもあってあまり有名じゃないと本に書かれていた。そんな硬魔石の壁に激突したイノシシがふらついてよろける。
「生成! 突魔石! スピアッ!」
バーストボアの頭上に槍を生成して落下させた。
頭に槍が突き刺さったバーストボアは悲鳴をあげて、ようやく倒れてくれる。
「ふぅ……勝ててよかった」
改めて見るとすごい大きさだ。これなら食料として十分なはず。
解体はユウラが得意だと言っていたから任せよう。
「ユウラ、お願い……あれ? どうしたの?」
「リオ、強い」
「あ、うん。ありがと……。でもユウラも強いよ」
「なんで」
「なんでって言われても……」
「ねぇなんで、なんで」
すごいユウラにせがまれている。そういえばユウラ、さっき僕の名前を叫んでくれたような?
心配してくれたんだと思うし、ちょっと距離が縮まったようで嬉しかった。
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