第3話 彼女改造計画

「おい、山田」


 背後から呼び止められ、山田みかんはゆっくりと振り返る。


「また……狩野か……」


 仁王立ちの狩野は、周囲の注目を集めていた。道ゆく女性は皆、キャアキャア言いながら狩野に熱い視線を送っている。

 余計なことを口走らなければ正真正銘イケメンなのだ、この男は。


「私これから用事あるから、どっかいってくんない?」


「まあ待て」


「いや、待ちませんけど」


「いいからいいから」


「コラっ、引っ張るな狩野! 私をどこへ連れて行くつもりなんだよ! 離せえええ!」



 狩野がみかんを引っ張り込んだのは、高校生には少しお高めのブランドショップだった。


「スタッフゥー! スタッフゥー!」


「はい! お待たせして申し訳ございません。ぼっちゃま」


 狩野の呼びかけに、細身のスーツを上品に着こなした男性スタッフが慌ててやって来た。


「うん、差し支えない。悪いがこの芋女を美しく変身させてくれないか」


 狩野とスタッフのやりとりに、ギョッとしたのはみかんだ。


「ちょっと! 勝手なことしないでよ! 私はこれでいいんだから」


「フハハ! 嬉しいだろう! ここは俺の父が経営する店のひとつだ。気にすることはない」


「いや、気にするわ!」


 大騒ぎの末、女性スタッフに店の奥に連れて行かれたみかんは、あれよあれよといううちに、高価なワンピースに着替えさせられ。いつの間にか出張眼科医に視力を測られ、コンタクトレンズを装着させられた。

 もさっとした髪の毛は美容師によってトレンドを押さえた形に整えられ、最後に現れたメイクアップアーティストが、滑るような筆使いでみかんの顔を仕上げていく。


「ぼっちゃま、完成いたしました」


 いい顔で汗を拭うスタッフたちの中心には–––––磨き上げられ、可愛らしく変身したみかんがいた。


「くっ……エクセレントッ! さすがうちのスタッフたちだ……!」


 頬を染め、みかんを直視できずにいる狩野。

 異様な雰囲気の中、渦中のみかんは驚いた様子で手渡された鏡を覗き込んでいた。


「うわ、これ……私……?」


(フッフッフ。驚いているな。こんなことをしてくれる男はなかなかいないぞ?)


「さあ、山田みかん。どうかな、これから俺とデートでも……」


「いや、だから私これから予定あるから」


 すっぱりとそう言い切ったみかんに、その場の時が止まった。


「は……?」


「っていうか、なにこれ。頼んでないし。服とか全部クリーニングして返すから。変身にかかった費用とかもあとで教えて。バイトして返す。じゃ! 私急ぐから」


 敬礼の格好をしたみかんは、店の外へと走っていった。

 取り残され、唖然とするスタッフと狩野だったが。


「ま、待て……! 山田みかん! 待たないか!」


「ぼ、ぼっちゃま。少々しつこいのでは……」


「こうなったらなりふり構ってられるか!」


 みかんの消えた方向に向かって、勘違い王子も駆け出したのだった。

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