第2話 告白といえば……

 昼休み。屋上でひとりパンを齧りつつ、推しの情報をSNSでチェックしていたみかんのもとにはやってきた。


「貧しい昼飯をひとりで食べてるな、地味女」


「……狩野。なんか用?」


「山田みかんというんだな。あまりに地味すぎて、すでに六月だというのにお前の存在に今まで気が付かなかったぞ」


 腰に手を当て、キザったらしくもう一方の手で前髪をかきあげる狩野を前に、みかんはゲンナリする。


「なんなの? わざわざバカにしにきたの……? クソうざいからどっかいってくんない……?」


 生ゴミを見るような視線を投げつけられ、新鮮な反応に狩野は身震いした。


(俺に見つめられても、一ミリも動揺しないだと……?)


 地味女山田みかんは、狩野にとってまさに突如現れた雷鳴。

 パンを咥えて教室に入ってきたその姿を見て、狩野はこの出会いを天啓だと思ったのだ。

 おまけに人気者の狩野に対するこの態度。


(ふふ、さすが俺が見込んだ女。完璧だ……!)


 気づけば狩野は、その場で高笑いをしていた。


「フハハハハ……!」


「え、なに。キモッ。なに笑ってんの、キモッ!」


「フフ……おもしれー女」


「リアルでそれ言うやつ初めて見たわ」


「山田みかん」


 ジリジリとにじり寄ってくる狩野に、みかんは立ち上がり、あとずさる。


「な……なにさ」


 みかんの頭上の壁に「ドン」と突き立てられる狩野の腕。

 自己中王子を思わせる堂々とした表情で、狩野はみかんに言った。


「お前、俺と付き合え」


 静まり返る屋上。手に持っていたパンを地面に落とすみかん。

「決まった」とひとりほくそ笑む狩野とは対照的に––––みかんの表情は凪いでいた。


「私、二次元の男にしか興味ないんで」


「……は? なんだと?」


「じゃーね」


 おさげ髪の彼女は落ちたパンを拾うと、颯爽と狩野の横を通り過ぎていった。



 *



「うまくいかない……! なぜだ」


「独り言がうるせーよ、狩野」


 放課後、狩野と森は、学校近くのカフェに寄り道していた。

 窓に面したカウンター席に陣取り、生クリームがたっぷり乗ったコーヒードリンクを勢いよく吸い込みながら、狩野は眉間に皺を寄せている。


「偏屈な地味女を落とすには、一体どうしたらいいんだ……ハッ! こんな時こそバイブルの出番」


「フツーに話しかけるところから始めて、徐々に仲良くなればいいだろ。……おいこら、こんなところで堂々と少女漫画を読み始めるな。俺が恥ずかしいだろうがっ」


 森のアドバイスには耳も貸さず、漫画を読み進める狩野。

 そしてなにかを閃き、バッと顔をあげた。


「なんだよ、びっくりさせるなよ」


「これだ……! これならうまく行くはず」


「ほんとお前人の話聞かねーな。……まあ面白いからほっといてやるか……。ん? おい狩野、あれ山田さんじゃね?」


 窓の外を見ていた森が外を指差す。狩野は席から飛び上がって、森が指差した方向を見た。


「フッ、やはりあの女と俺は赤い糸で結ばれているんだな。なんたる幸運。森、俺は彼女を追いかける。これで支払いは足りるな? じゃ!」


「おい、待てって!」


 凄まじい勢いで残量を飲み干し、水を得た魚の如く狩野は店から飛び出していった。


「この店先払いだったじゃんかよ……。めちゃくそテンパってんな。まあいいや、明日学校で返してやるか」


 森はため息をついて、狩野の残していった千円札をポケットに突っ込んだのだった。

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