少女漫画脳男子は地味眼鏡女子を落としたい
春日あざみ@電子書籍発売中
第1話 食パンを口に咥えた乙女
レンガ造の堅牢な校門の内側へ、彼が一歩足を踏み入れた瞬間、黄色い悲鳴があたりに広がる。
「狩野くんと通学時刻が被るなんてラッキー!」
「はあ、本日も眼福……」
雑誌に出てくるモデルのようなスタイル。
すっと通った鼻筋に、くっきりとした日本人離れした二重。
センターパート分けの少し長めの茶髪。
おまけに大手企業の御曹司という肩書付き。
ツッコミどころがないほどに完璧なイケメンである彼に、サンピエトロ学園高校の女子生徒は誰でも夢中なのだ。
「ウッス! 朝っぱらから相変わらず人気だよねえ、狩野くんは」
首に大きなヘッドフォンをぶら下げた
「……森か。あんなの、ただうるさいだけで迷惑なだけだ」
「うわー辛辣。ヤダヤダ、これだから人気者は。でもさー狩野」
「なんだ」
「こんだけモテるのにさ、なんで彼女作んないの? 選び放題じゃん」
狩野は森にそう言われて、立ち止まった。
不機嫌そうな顔で森を睨むと、捲し立てるように言い放つ。
「あいつらうるさいんだよ! ピーピーキャアキャア言って、ちょっと笑顔を向ければうっとりしやがって。俺が求めてるのは、少女漫画みたいなピュアなロマンスなの! すぐベタベタ触ってきたり、あざとさ全開の女は嫌いなんだよ!」
森は絶句した。狩野の発言を理解するのに一分ほど消費し、おそるおそる意図を聞き直す。
「狩野……お前いつも少女漫画読んでるなって思ってたけど。まさか現実の恋愛にその世界観を持ち込んでるわけ?」
「当然だろ! 少女漫画は俺のバイブルだ! それにあれは女向けに描かれてるわけだから、女側だって、そういう恋愛を求めてるはずだろ」
あまりの狩野の勢いに、森は圧倒されつつ。
勘違いが暴走している友人の軌道修正をしてやろうと、諭すように声をかける。
「狩野さあ、リアルであれを実践したとしら、ドン引きじゃね?」
「ただな、なかなか現れないんだよ、俺のストーリーにぴったりハマるヒロインがさ……」
「人の話聞いてねーわこいつ」
––––学園一の超絶イケメン「
*
学園一の地味女、山田みかんは、ずれかけたメガネを中指で掛け直しながら、ピカピカに磨かれた木張りの廊下を全力疾走で駆け抜けていた。
校則通りの着こなしの制服を風に揺らしながら、口にはトーストを咥え、全力疾走で教室に向かう。きっちりと編み込まれたおさげも、ブンブンと左右に揺られている。
(やば、今日はマジで遅刻だわ)
ホームルームの開始時間から遅れること三分、慌てて教室のドアを開く。
「おフォフォなりむした!」
「……山田、せめてパンを口から離してから挨拶しろよ。ほれ、さっさと席に座りなさい」
まるで昔の少女漫画から飛び出してきたかのようなおかしな絵面の生徒の登場に、担任の豪徳寺は呆れ顔を彼女へ向けた。
みかんは豪徳寺に会釈をしつつ、俯きがちに席へと座る。
しかし背後から身の毛がよだつような気味の悪い視線を感じて、思わず振り返った。
「見つけた……俺のヒロイン……!」
狩野の大きな独り言に、固まる生徒たちとみかん。
学園一の超絶イケメンが、頬を染め、うっとりとした表情でパンを咥えたみかんを見つめているという状況に、誰もが唖然としていた。
もちろん、みかん自身も。
(私が狩野のヒロイン……ってどゆこと? 意味わかんないんだけど)
みかんはまったく意図せずして、
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