半魚人と人魚
その日も、半魚人は水面から顔を出し、岩に腰掛けハープを奏でる美しい人魚の姿を見つめていた。
「…はぁ…どうしてこんなに違うんだろう…」
半魚人は深いため息をついた。というのも、自分の容姿に強いコンプレックスを感じていたからだ。
「…同じ半分魚、半分人間という姿をしているのに、上半身と下半身が違うだけでこんなにも変わってしまうなんて…」
半魚人の目からポロポロと涙がこぼれ出した。
すると、その様子を見ていた人魚が半魚人の元にやってきた。
「どうして泣いているの?」
「…」
「黙っていたら分からないわ」
半魚人は絶対に話さないようにしようと思っていたが、人魚の優しい口調に心が安らぎ、恥ずかしながら打ち明けることにした。
「私、あなたのような人魚が羨ましいの」
「羨ましい?どうして?」
「同じ半分魚、半分人間という姿をしているのに、半魚人の私はこんなにも醜いから…」
「まあ、そんなことなんかで悩んでいるの?」
半魚人は人魚に馬鹿にされたように感じ腹を立てた。
「そんなことなんかですって?あなたは美しい姿をしているからいいわよ!こんな悩みあなたには一生分からないでしょうね!」
半魚人がそう言い残しその場を離れようとすると、人魚が引き留めた。
「待って!怒らせてしまってごめんなさい。でも、あなたが思っている以上に人魚の世界も良いものではないのよ」
「フン…そんなことあるわけないわ!」
半魚人は人魚の言うことを信じられなかった。
「本当よ!信じてもらえないのならそれでもいいわ。人魚はよく美しいと言われてるけど、実際は顔の悪い人魚もいれば、太っている人魚だっている。私が言うのもあれだけど、容姿に自信のある人魚だけが、水から出て姿を現したりしているの。人魚の世界にもあなたのような悩みを持った人魚が沢山いるのよ」
「…本当に?」
半魚人は疑いの表情で聞く。
「ええ。それにね、美しい姿をしていても決して良いとは言い切れないの。美しければ美しいほど人間の標的となって、無理やり体を触られたりする人魚が沢山いるのよ」
「…そうなんだ…そんなのひどい…」
半魚人の人魚への怒りはいつしかおさまり、同情へと変わっていた。
「ひどいでしょ。それに比べたら半魚人のあなたは本当に幸せ者だと思うわ。それに、あなたを見ていて思ったけど、半魚人の中でもあなたとっても可愛いじゃない。凄くモテるんじゃないの?もっと自分に自信を持つべきだわ」
人魚の優しい言葉に、半魚人のコンプレックスは完全に消え、前向きな考えへと変わっていった。
「ありがとう。あなたのおかげでこんなコンプレックスなんて馬鹿馬鹿しくなったわ。これからは半魚人であることを恥じることなく、仲間たちと楽しく生きていくわ」
「そうよ、それでいいの。…まあでも、私が生まれ変わったとしても、絶対に半魚人みたいな醜い姿になんてなりたくないけどね」
翌日、浜辺には大量の人魚の死骸が打ち上げられた。
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