天使
「空から金でも降ってこねぇかな~」
そんなことを思いながら、早川はトボトボと歩いていた。
早川は非常に飽きっぽい性格で、何をやっても長続きしなかった。つい一週間前にも仕事がつまらないと感じ辞めてしまった。
「世の中つまんねえ仕事ばっかりだよな。でも働かなきゃ金はねえし、この先どうすっかな……おっ!」
早川は足下にキラリと光る五百円玉を見つけた。
「ラッキー!…あ、こうやって金を拾っていけば働かなくてもいいかもな」
『キャハ…その考えは甘すぎるけどラッキーだったね』
「誰だ!」
早川は小銭を拾って喜んでいるのを笑われ、怒りをあらわにしながら辺りを見渡したが、どこにも声の主の姿はなかった。
『キャハハ…上だよ、上』
「てめえ!笑うんじゃ…!…う…浮いてる!」
早川が上を見上げると、空中に素っ裸の男の子が浮かんでいた。
「な…なんだよこりゃ…」
早川は目の前の光景が何なのか分からず、呆気に取られた。
「キャハハ…驚かせてごめんよ。僕は天使なんだ」
「天使?」
その言葉を聞いた早川は我に返り、みるみるうちに怒り出した。
「ふざけんじゃねえぞ!どこまで俺を馬鹿にすりゃ気が済むんだ!」
天使は早川をなだめるように言う。
「まあまあ…少し落ち着いてよ。じゃあ僕は今なんで浮いていられると思うの?」
「そんなもん何かのトリックだろうが!」
「違うんだな。ほら見てよ。羽根がちゃんと生えているじゃない」
確かに天使と名乗る男の子の背中には羽根があり、パタパタと動いていた。
「どうせ作り物だろ!」
「疑い深い人だな~。ほら近くで見てみなよ。触ってもいいよ」
天使は早川の元へいき、背中の羽根を見せた。
「ほ…本当だ…。ちゃんと皮膚から生えてるし温かい…」
早川はまじまじとその羽根を見て触ってみたが、作り物だとは到底思えなかった。
「い…いや!こんなもの今の技術ならいくらでも作れるはずだ!俺は絶対に信じないぞ!」
「なにムキになってんのさ。じゃあとっておきのものを教えてあげるよ。僕の姿は君にしか見えないんだ。周りを見渡してごらんよ。さっきから君が一人でべらべらと喋っているから変な目で見られてるよ」
「なんだって!」
早川が辺りを見渡すと、人々の視線は早川に注がれ、ヒソヒソと何か言われていた。
「う…」
「どう?これで信じてくれたかな?」
「わ…わかったよ。わかったから場所を変えよう」
早川と天使は人気のない路地に入り込んだ。
「ここなら大丈夫だろう。…で、その天使が俺に何の用なんだ?」
「別に用なんて無いよ。ただ君に幸せが訪れたから現れただけさ」
「それだけ?何かしてくれるんじゃないのか?」
早川は、天使というだけあって何かしてくれるものだと思い込んでいた為、不満に思った。
「何もしないよ。そもそも天使は人の幸せをそばで見守るだけなんだ。よく良い事があった時、“天使が微笑む”なんて言うでしょ?あれは本当に天使がそばで微笑んでいるんだよ。人の幸せを見ることが天使にとっての幸せでもあるんだ」
それを聞いた早川は退屈そうに天使に言う。
「けっこうつまんない奴なんだな。天使って」
「つまんないとは君も失礼な奴だな。じゃあもう一つ天使について教えてあげるよ。天使にはいろんな天使がいるって知ってた?例えば堕天使。神の試練に耐え切れず下界に堕とされた天使のことなんだけど、悪魔って言った方が分かりやすいかな」
「馬鹿にするなよ。それぐらい知ってるよ」
「まだまだ、最後まで聞きなよ。これ嘘みたいな話なんだけどさ、お菓子の大好きな“寒天使”なんていう、お前無理やり名前付けただろみたいなふざけた天使もいるんだよ。笑っちゃうだろ?」
早川は天使の話を聞いて、少しも面白いとは思わず興味すら湧かなかったが、試しに聞いてみることにした。
「ちなみにお前はどんな天使なんだ?」
天使は質問されたのが嬉しかったのか、胸を張り、得意げに答える。
「僕は“有頂天使”。その人の人生の中で、最も幸せな時に現れるのさ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます