シュール宅急便

まぼたん

瓶に詰めた手紙

「ちゃんと押さえときなよ」

「やめて!離して!」

「うるさいなぁ~。あんたがあの時チクらなきゃこんな事にはならなかったんだよ。反省しろよ!」

『ボゴッ!』

「うっ…!」

 鈍い音とともに美月の腹部に拳がめり込んだ。


 美月へのいじめが始まったのは、3ヶ月前の中間テストでの出来事がきっかけだった。

 頭の良かった美月は、早々に問題を解き終わり答案用紙を机に伏せると、ボーっとクラスのマドンナ、エリカの姿を見つめていた。

 エリカは美月に負けないぐらい頭が良く、更には美しすぎる容姿までも兼ね備えていた。

 いつも勉強だけは負けまいと頑張ってきた美月だったが、エリカに敵わない事もしばしばあった。

 どうしたらあんなにも完璧な人間になれるんだろうと思っていたその時、美月は信じられない光景を目の当たりにした。

 エリカが消しゴムを手に取りカバーをずらしたかと思うと、中から小さく折られた紙があらわれ、慣れた手付きで手のひらに広げると、それを見ながら答案用紙に答えを書き始めたのだ。

『カンニングだ!』

 美月は心の中で声を上げた。

そしてその瞬間、あんなに完璧だと思っていたエリカが、カンニングをしていたという事実を知ってしまった美月の心の中に、黒い考えが浮かび上がってきた。

 この事を皆の前でばらしてやればエリカの株は大暴落。容姿では敵わないが勉強だけでも勝つことが出来る。

 このまま全てにおいて負けたままなんて嫌だ。悔しい…悔しい…悔しい…!

「先生!エリカさんがカンニングしてます!」

 美月を止めるものは何もなく、気が付けばそう叫んでいた。

 エリカは突然の出来事に完全に固まり、すぐさま先生がエリカの持ち物検査をし始めると、消しゴムから出てきた紙だけでなく、シャープペンの中や制服の袖から次々とカンニングペーパーが出てきた。

「エリカさん。職員室で話をしましょう」

 先生に連れられて教室を出ていくエリカを見ながら美月は、ざまあみろと必死に笑いを堪えていた。

 しかし、エリカが扉の前で立ち止まり美月を一瞥すると、その睨みつけるでも悲しみでもない、感情をどこかにやってしまったような無表情の視線に、美月の背筋は凍りついた。

 更に追い打ちをかけるように、皆の反応も美月の想像とはかけ離れたものだった。

「お前、友達を売るなんて最低だな」

「優等生気取りかよ」

「空気悪くなるから学校辞めてくんね?」

 次々に浴びせられる言葉に美月は吐き気を覚えトイレに駆け込むと、個室の中で吐き気と戦いながら号泣した。

 確かに悪い考えは持っていたが、不正を見つけて正しいことをしただけなのに、不正をはたらいたエリカより悪者にされることがどうしても理解できなかった。


 これ以降、美月へのいじめは始まり日々エスカレート。冒頭の出来事は日常茶飯事だった。精神的にも肉体的にも追い詰められた美月は、ついに自殺を考え出していた。

 ただ、自分をここまで育ててくれた親のことを思うと、なかなか自殺に踏み切ることができず、最後の望みとして、この誰にも打ち明けることのできない思いを手紙に込め、瓶に詰めて海に流し助けを求めることにした。


 その後、手紙は何ヶ月もの月日を重ね、とある島に流れ着き男に拾われた。

「瓶に詰めた手紙か。本当にこんなものやる奴いるんだな。なになに。いじめに耐えられません…死にたい…助けて…だと。…何が助けてだ!助けてもらいたのはこっちだわ!」

 無人島に漂着した男は手紙をビリビリに破り捨てた。

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