第4話 「生かすか、殺すか」
「さて、お前はどんな呪いを持っているんだろうな。」
それが今一番興味深いものだな。俺が持つ呪い以外で、どんな呪いがあるのか、気になる。俺相手なんだ。きっと本気で来るだろ。のんびり待ってみるか。呪いの内容次第では、仲間にするのも悪くないかもな。
「死ねっ!!化け物!!」
こいつは光の呪いか?今の状態だと弱すぎて話にならんな。もしかしたら飲み込まれるんじゃないか?
威勢よくよく言い放った男が放ったのは、大小様々な大きさの光の弾幕だった。だが、
「弱いな。この程度の強さでおれに本気で勝てると思っていたのか?勝算は?」
俺はそう男に言いながら、呪いも、魔眼も、武器も使うことなく、大鎌を持っていない左手の人差し指で俺に向かってくる小さな弾幕を、"弾いた"。
「なっ…!?」
バカな…そう呟きながら男は呆然としている。
「いや、そんな訳ない…!俺はもっとやれるはずだ!!」
現実から目を背けるように男は言い、大小様々な大きさの弾幕を狙いも定めずにあちこちに打ち始めた。
「はぁ…呪いに飲み込まれているのか。ダメだな。こいつはもう。」
俺は呆れたようにため息を吐き、男の目の前まで歩いていく。当然、狙いも定めずに放っている弾幕など俺に当たることは無かった。
「呪いに飲み込まれた哀れな邪忌人よ。永遠の眠りに落ちるといい。」
俺が静かにそう言い放ち、大鎌を振り上げ、男を殺そうとした瞬間だった。
「待ってくれ!!」
後ろからそんな悲痛な声が響いた。
この声は聞き覚えがある。確か俺をここまで連れてきた男だったか。そのまま逃げていれば、延命できたろうに。そこまでしてこの男を守りたいか。
そうして、俺は振り上げた大鎌を下げ、その裏切り者の男の方へ振り返る。
「命が惜しかったのでは無いのか?」
「確かに命は惜しいさ!けど…リーダーが殺されるのだけは黙って見てられねぇ!見殺しには出来ねぇ!どうせ俺はあんたに嘘をつき、裏切った罪で殺されるんだろ!?」
「そうだ。お前はどのみち死ぬ。だが、ここに戻ってこずに大人しく逃げ回っていれば延命できただろう。どうしてそうしなかった?」
「俺は!リーダーに命を救ってもらった!だから!だから…リーダーを裏切るようなことは出来ねぇ…なあ、そうだろ?皆。」
そう男が呼びかけた瞬間だった。
「あぁ……………そう……だ…………」
「俺………達……は…」
「リーダー…に……命を……救ってもらった……恩が……ある…」
そう口々に言いながら起き上がる気絶していた者達。
4人か。他が起き上がらないのを見る限り、死んだか。俺の威圧はかなり手加減したとはいえ、この程度の時間で、この程度の実力の奴らが目覚められる程優しくない。
「お前、〈実力限界突破〉の呪いを持っていたのか。」
「流石は呪いの神だ。その通り、俺はその呪いで仲間達を強化して無理やり目覚めさせたのさ。」
そういうことだったか。だが、呪いに飲み込まれた邪忌人は二度と元の知性ある人間に戻ることはできない。
「だが、ここで俺を始末しようとしても返り討ちにされて終わり、リーダーの男を救おうとしてもあいつは呪いに飲み込まれて自我が完全に崩壊してしまっているからもう助けることは不可能。殺して眠らせてやった方が遥かに楽になるだろう。それでも尚、お前たちはリーダーの男を救いたいか?救えないと分かっていても。」
これの返答次第でこいつらの命の長さは決まる。呪いに飲み込まれて自我が崩壊した邪忌人は、死の寸前に自我を取り戻すことがある。たった一瞬でも、最期を看取りたいと言うならば、俺は待ってやってもいいと思った。それに、こいつらの実力や呪い次第では、仲間にして強くするのも良い。
「………救いたいさ。俺たちを救ってくれた恩人だ。」
男の言葉に、他の取り巻き達も今にも泣き出しそうな表情をしながら頷いていた。俺の言葉で、俺の言っている「救う」という言葉の意味を理解したからだろう。
「そうか。ならば、あいつの最期をお前たちが看取るまでの間、俺は手出しをせずにお前たちを見ているとしよう。」
俺のその言葉に、男が、続いて取り巻き達が、次々に俺に深々と頭を下げ、リーダーの男の方を向き、次々に自らの呪いを発動していく。
呪いとは、自らの心の弱い部分に巣食う。自らの心が最も弱くなり、脆くなった瞬間に、呪いは体を乗っ取り、奪おうとしてくる。こいつらがこの悲しみを、この最も心が弱くなり、脆くなる時を乗り越えられたならば、それは本当の意味で強くなれるという事だ。その時は、俺の仲間として迎え入れよう。
「皆、覚悟は良いな?……やるぞ。」
その言葉を合図に、一斉に発動した呪いを攻撃に転じて行く。最初は植物を操る呪いだろうか?リーダーの男の体を細い木の幹が絡みついていく。次に闇を操る呪いだろう。リーダーの男の足を、底なし沼の様に影に引きずり込み、上半身だけが地上に出た状態になっている。次に黒い炎だ。あれは〈憎悪の炎〉という呪いだろう。負の感情を炎に変える呪いだ。その炎をリーダーの男に放つ。リーダーの男に絡みついていた細い木の幹ごとリーダーの男を焼いていく。最後に、空気を焼きながらリーダーの男へと進んでいき、直撃した細い稲妻。雷を落とす呪いか。それとも、電気を操る呪いか。どっちにしろ、これは中々の威力だ。リーダーの男は、光の弾幕を出す力すら無くなったのか、力なく影に下半身が埋まったまま前に倒れた。
「終わったか。さて、もう死ぬ間際だ。自我…いや、残留思念は現れるか?」
俺が小さくそう呟いた時、倒れていたリーダーの男が苦しみながらも起き上がり、口をパクパクと動かしていた。声は小さすぎて聞こえていない。その様子を見て、男と取り巻き達が男の元へ走っていき、大粒の涙を流しながら口に耳を近づけて耳をすます。男は笑顔で何かを言って、死んだ。
「う………あぁぁぁぁああぁぁぁ!!!!!」
声を上げて泣きじゃくる男達。
ここからが本番だ。お前達は、この悲しみを乗り越えることが出来るか?呪いに飲み込まれずに、悲しみを乗り越え、リーダーの死を受け入れることが出来るか?
「リー……ダー………!」
そう鼻声になりながらもはっきりとそう言う男に、俺は問う。
「最期は、何を言っていた?」
男は、少し驚いたような表情をしながらも俺にはっきりと言った。
「ありがどゔ……っで……お前達ど……出会えで…良がっだっで……」
「そうか。お前達に最期を看取ってもらえて、幸せだっただろうな。」
俺は、そう同情したような言葉を吐く。だが、決して同情などではない。あいつの最期の顔は、本当に幸せそうだった。その顔に嘘偽りは無い。
「さて、見事呪いに飲み込まれずにリーダーの死を受け入れたお前達に、1つだけ提案をする。」
「提案……?」
怪訝そうな顔で俺を見てくる男に、俺は言った。
「お前達、俺の仲間にならないか?」
「断れば…?」
「死だ。」
「………少し、考えさせてくれ。」
男は残った仲間の方を見て、少しの間を空けた後、そう言う。
「構わん。」
まあ、当然の反応だ。自分たちのリーダーが死んだ傍から他の強者の、生か死かの選択を迫られているんだからな。じっくり考えるといい。俺はお前達の考えを尊重する。
__そして、5分程の時間が経ち、俺は声をかけた。
「考えは、決まったか?」
そう声をかけると、男はリーダーの男の亡骸を見て申し訳なさそうな顔をした後、俺の方を向き、覚悟を決めたような表情をした。
「………ああ。決まった。俺たちをあんたの…いや、貴方様の仲間にして頂きたいです。」
そうして、言葉遣いを正し、俺の仲間になると言った男。他の仲間達も同意したようで、皆覚悟を決めたような表情をしていた。
「良いだろう。お前達を俺の仲間として迎える。」
「ありがとうございます。……ええと、貴方様の事は何とお呼びすれば宜しいでしょうか…?」
そんな事を言ってくる男の言葉を聞き、俺はブロスに言われた事を思い出した。俺の情報は見た目以外殆ど知られていない。知らないのも無理は無いか。
「ルインだ。呼び方は任せる。」
「分かりました。では、ルイン様、と。」
「構わん。」
先ずは、俺やこいつらの拠点となる場所が必要だな。いくら金があるとはいえ、宿に泊まり続ければあるものも無くなっていく。俺は常識に少し疎いからな。こいつらにブレーキの役割をさせようと思ったことが間違いだったか。探せばもっと強い奴も居ただろう…まあ、また仲間を作ればいいか。
「なあ、お前たちの拠点とかは無いのか?」
「ありますよ。この城塞都市含む8つの大きな街の内の1つに本拠点となる屋敷が1つ、他の3つの街にそれぞれ戸建ての家が1件ずつです。」
金に余裕でもあったのか?そんなに拠点を作る必要があるとも思えないが。まあいい。
「とりあえず、その本拠点がある街へ行ってその屋敷を今後の活動拠点としよう。」
「は。」
「その街はここからどれくらいかかる?」
「そうですね……城塞都市を出て魔物が出るだけで何も無い草原を休憩込みで歩いて3日程でしょうか。」
「分かった。明日の朝出発しよう。今日は各自宿を取って休め。明日の朝、この場所に集合だ。」
俺がそう言うと男たちは跪き、
「は。」
と言って各々の行動を始めた。
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