第3話 「ギルファスに忍び寄る邪悪な影」
身分証を発行でき、城塞都市ギルファスへと無事に入ることに成功した。
「さーて、とりあえず武器屋と石窯亭にでも行くか。」
そう呟き俺はまず武器屋を探して商店街のような所を歩いていた。
「あちこちに人が居て…色んなものを売っている…活気に溢れた平和でいい街だ。」
俺が歩いていたのは、主に食べ物やアクセサリーを売っている店が多くある所だった。そして、俺は適当に果物を売っていた店へ入る。その店は平民でも気楽に入れそうな内装をしている。
「お、見ない顔だな、嬢ちゃん。」
そう気さくに話しかけてきたのは、駄菓子屋のような支払いカウンターの中で椅子に座っているこの店の店主と思しきガタイのいい男。
「嬢ちゃん」…か。同じくらいの歳の見た目の男には「あんちゃん」とでも言うのか?すぐに想像出来てしまうな。とりあえず挨拶し返しておくか。
「こんにちは。私、今日初めてこの街に来たばかりなんです。」
「お、そうなのか。じゃあ此処が初めて来たこの街の店か?」
「ええ。夜ご飯には石窯亭という所が美味しいと聞いたので行ってみようかと思ってるんです。」
「おお。そりゃあ良い。あそこのビーフシチューは絶品だぞ!」
ふむ…この街の人間はやはり石窯亭のビーフシチューが絶品と口を揃えて言うな。そんなに絶品ならばやはり1度は食べてみたいものだ。
「それが凄く気になってるんですよ〜」
そう言って微笑みかける。
「ああ。是非食ってみてくれ。」
「ところで、今が旬でオススメの果物ってありますか?」
「オススメの果物か…そうだな、この林檎なんてどうだ?」
そういって椅子から立ち上がり、林檎を2つ手に取る店主。
「あの、1つで良いんですよ…?」
「嬢ちゃんには特別にオマケだ。」
まあ、これが普通の暮らしなんだろうな。普通の暮らしなんてして来なかったから中々新鮮な気持ちだ。
「ほんとですか?ありがとうございます〜」
そう言って表面上だけ微笑む。果たして心から笑うなんてことをできる日は来るのか。
「遠慮なく持っていきな!ここの果物は質がいいし安値だぜ!」
「じゃ、有難く貰っていきます。」
「おう。じゃ、銅貨2枚だ。」
そう言われ、俺は銅貨を2枚取り出し、林檎が2つ入った紙袋を受け取る。
「これで大丈夫ですか?」
「ああ、ちょうどだ。まいど!」
そう言って豪快に笑う店主。俺は軽くお辞儀をして店を出た。
俺が店を出た瞬間だった。街の検問所の方から爆発音のような大きな音が聞こえてきた。
「何…?」
俺は魔眼を発動し、先程買った林檎の入った紙袋を別空間に収納し、検問所の方へ足を運ぶ。
「…………は?」
検問所へ来た俺の目に映ったのは、思わずそんな声を出してしまう程の驚愕の光景だった。先程の爆発音からして、爆弾か魔法か何かによって火が付いたのか、燃え続ける検問所に、血だらけで倒れている検問所の兵士たち。中には死んでいる者もいるのではないか?ブロスは無事か?
「誰がこんな事をした…?」
また、俺の目の前で街が滅ぶのか?また、俺は街を滅ぼすのか?いや、俺はもう街を滅ぼすのも滅ぼされるのも見たくない。どうにかして犯人を見つけてぶちのめす。この街を助けて恩を売っておけば、何かあった時に助けてくれるかもしれないしな。
「そうと決まれば、行動しなきゃな。」
そう呟き、俺は深紅の眼を光らせ、偽装を解く。長い銀髪の髪は短い夜空のような紺色の髪へと戻り、女の背格好だった見た目は元の男の姿へと戻る。
「うん。やっぱりこっちの姿の方が動きやすいししっくりくるな。」
軽く準備運動をしながらそう言う。
「おい、てめぇ。」
「………てめぇだよてめぇ。そこのノッポ。」
しつこい奴だな。準備運動の邪魔しやがって。チンピラ如きが。
「あ?」
そう言って準備運動をやめ、その男の方へ振り返る。
「てめぇ、その見た目からして、〈常闇の…〉」
男がその言葉を言いかけた瞬間、俺は魔眼を発動して別空間からナイフのような刃物を取り出し、男の喉仏に突き立てる。
「おい、チンピラ。それ以上言ってみろ。お前の喉は一生使えなくなるぞ。下手したら死ぬかもな。」
「……は、はははっ………やっぱりそうかよ。てめぇが呪いの神か?」
呪いの神?なんの事だ。確かに複数の呪いは持っているが、呪いの神とやらになった覚えはないぞ?
「………どういうことだ?」
「知らねえのか?俺たち邪忌人や呪いの界隈ではてめぇは呪いの神とか言われてんだぜ?」
ほう。そんなことを言われていたのか。
「そうか。」
そう言って俺は突き立てていたナイフを別空間に収納する。
「………は?見逃すのか…?」
素っ頓狂な声でそう問いかけてくるその男に、俺は
「この惨状はお前たちの仕業なのだろう?お前たちの集合場所があるならばそこに案内してもらおうか。」
と言う。
こいつならこれをやった仲間の所を知っているだろうからな。虱潰しに探し回るよりも居場所を知ってるやつに案内させた方が高いからな。
「わ、分かった……案内はする。だが、俺が案内したと知られたら俺は殺されちまう…だから、俺は途中まで案内して近くまで来たら逃げさせてくれ…頼む。」
自分の命は惜しい…か。まあそれが普通の考えか。
「良いだろう。お前がちゃんと仲間の所へ案内したら…だがな。」
「分かってるよ。もし裏切ったら殺してくれて構わない…」
「じゃあ、案内してもらおうか。」
そう言って俺は男に案内を促す。
「ああ…こっちだ。」
男は家と家の間、所謂路地裏と言えるところへ入っていく。俺は男の後ろをついていく。
「ここは…どこかの広場か?」
男が立ち止まり、その先を見ると、何やら小さな広場があった。
「ああ…ここはこの街の住人も滅多に来ないような広場なんだ。」
「そうか。この先に居るんだな?」
「そろそろ集合時間だからな…殆どいると思う。俺が案内出来るのはここまでだ。俺は今から遠回りして別の入口からこの広場まで行く。」
「分かった。ご苦労だったな。」
俺は男にそう言うと、男は酷く怯えた様子でその場を後にしたように見えたが、男は振り返る直前に口角を一瞬上げ、勝ち誇ったようにニヤッと笑みを浮かべていた。
「さて、この先か。」
そう俺は呟き、魔眼を発動し、何も無い空間に手を突き出す。すると、突き出した手が何も無い空間に吸い込まれるかのようにしてその空間に入っている部分だけが無くなっているように見える。そうして、俺は突き出した手を引く。御伽噺の死神が持っているような、禍々しい漆黒の大鎌を掴んで。
そして、俺は路地を歩いていき、眩い光で中が見えない広場に入る。
「おい!今だ!!」
「「おう!」」
その叫び声と共に、俺の視界には幾つもの縦の太い線が映った。檻だ。呪いが発動しない。1度、何処かで聞いたことがある。邪忌人の呪いを無効化して閉じ込める檻があると。
「はっ、まんまと引っかかりやがったな!」
そう俺の目の前で威張り散らかしているのは、先程の男が言っていた、リーダー格の男だった。
「この程度の檻で、俺を無力化したつもりか?」
俺は呪いを発動できない檻の中だと言うのに、笑った。何故か?理由は簡単だ。
「確かに俺の呪いはどれも強力だし世界を滅ぼすことだってできるだろう。ましてやお前達程度など相手にもならない。だが、俺が呪いだけの化け物だと思っていたのなら、それは間違いだ。」
俺には、"魔眼"がある。
そう心の中で呟き、俺は魔眼の種類の中で二種類しかない、禁忌と呼ばれる、俺しか持っていない伝説の魔眼を発動する。俺の両眼が深紅の禍々しい光を放つと、檻は初めから無かったかのように跡形もなく滅び去った。
「…………………は?」
一言。たった一言だが、目の前のリーダー格の男が驚きと恐怖を表すには十分だった。
「良かった。俺の魔眼は鈍っていなかったようだ。」
そう俺は言い放ち、悠々と男に向かって歩き始める。
「…くっ………来るなぁ!!化け物ぉ!!」
「化け物?世間一般的に見れば、邪忌人である時点でお前らも化け物と分類されるぞ。」
俺は冷静にそう言葉を返す。呪いを持たない人間は魔法を使う。魔法は呪いと違い、魔力量によって使える回数に限りがある。つまり、レパートリーは魔法の方が断然多いが、レパートリーが多かろうと回数制限がある時点で呪いの方が強いとも言える。実際、呪いは回数制限もなく、その気になれば常時発動できる。それに呪いと言うのは呪いの内容によっては魔法など児戯に等しいほどの力がある。ただ、強力な呪いほどその分反動も大きい。俺は複数の呪いを持っている為、副作用は呪いが打ち消しあっていたりするから関係ないが、普通の邪忌人はそうとはいかない。何かしらの反動、デメリットがあるはずなのだ。だから人間は呪いは禁じた。
男は後ずさり、黙っていた。
「なんだ?返す言葉も無いか?」
「うるせぇ!お前は化け物だろうが!」
「否定はしないがな。だが、俺を化け物と称するならば、お前ら程度のゴミ虫共が俺と同じ称され方をするのは気に入らないな。」
俺はそう言い放ち、文字通り眼を赤く光らせ威圧する。取り巻きの男と女、合計12名が倒れた。俺の威圧にやられたんだろう。残りはリーダー格の男だけだ。
「さて、どうする?残りはお前だけのようだが。」
そう挑発するように言うと、男は怯えた様子で、けれども殺意を込めた目を向けて言った。
「ぶちのめしてやるよ。化け物!」
「やってみろ。ゴミ虫。」
そう言葉を交わし、戦闘が始まった。
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