第2話 「初めての交流」

 記憶を頼りに歩き続け、目的地である大きな街、城塞都市「ギルファス」という所に来ていた。


「此処がギルファス…」


 街を覆い尽くす大きな壁。まさに城塞のような所だと思いながら、街に出入りする為の検問をしている所を見つけ、そこへ向かう。幾ら簡単に侵入出来るとはいえ、侵入者が分かる仕組みになっていれば面倒だ。そう考え、頭の中で身分証の発行をしてもらう為の架空の設定を考える。


「おい、あんた、身分証は?」


 その言葉を聞き、自分がいつの間にか検問所を通り過ぎかけていることに気づく。


「あ、えっと、すみません。私は小さな村の出身で、此処みたいな大きな街に行ったことがなくて…」


 久しぶりに人と話したということもあり、かなり動揺したような声になってしまった。


「えっと、つまり、あんたは身分証を持ってないと。」


「は、はい…お金ならあるので発行して貰えないでしょうか?」


 そう言って金貨を2枚布の袋から取り出す。何か役に立つと思って殺してしまった人々から拝借しておいたのだ。決して泥棒では無い。


「ああ、そういうことなら構わんぞ。付いてきて来て貰えるか?」


 そう言い、俺を先導する検問所の兵士。言われた通り付いていくと、そこは尋問をするような場所だった。


「えっと…ここは…?」


「お前、呪い持ちだろ?」


 迂闊だった。まさか検問所に正体を暴く様な魔眼を持った人間がいるとは思ってもいなかった。


「………どうして、そう思ったんですか?」


 一応知らないフリをして様子を伺ってみる。


「いや、俺もよく分かってはいない。ただ、お前の周りにだけ黒い靄と綺麗な白い靄が渦巻いていてな。偶に黒い靄の掛かった人間が居るんだが、そいつらは全員呪い持ちだったり呪法を使うやつだったりしたんでな。」


 なるほど。そういう事か。この兵士の魔眼は"まだ上達しきっていない"のか。よく分かっていないという事はまだ半信半疑だったりするんだろう。ただ、俺に"黒い靄と綺麗な白い靄が渦巻いている"というのはどういう事だ?呪い持ちでも魔眼を使えるやつは居る。そいつらはこの兵士の語彙で言うなら黒い靄だけだ。逆に、呪いを持っていない、普通の魔力持ちの人間ならば白い靄だけのはず。


「それで、私が呪い持ちだと判断した…と。」


「ああ。違うならそれでいい。もし呪いを持っているなら俺がお前の身分証を発行してやる。」


「…?何か違いとかあるんですか?」


「本来、身分証と言うのは呪い持ちかそうでないかを判断するものでもある。」


 そうか。つまり、身分証を"持っていれば"呪い持ちではなく、身分証を"持っていなければ"呪い持ちのように判断していると。ただ、偽物なんて作れるだろう。呪い持ちは身分証を発行できない術でもあるのか?


「でも、それは貴方がそれをする利点が無いですよ?」


「まあ、それはそうだ。だが、俺は相手が呪い持ちだろうとそうでなかろうと自分の目で見て人を判断する。そいつが俺にとって良い奴だと思えば俺はそいつを尊敬するし、協力したいとも思う。だから良いんだ。」


「そうか。なら、発行を頼みたい。」


 そう言って、正体を明かす。女の姿から、男の姿に戻る。


「あんた、男だったのか!?それにその姿…」


「ああ。多分あんたの想像通りだ。」


 そうして、男の口調で語り出す。


「どうして俺に正体を明かした?俺があんたを差し出したらどうするつもりだったんだ?」


「さあな。俺はあんたを信用出来ると思った。だから正体を明かした。俺は俺を助けてくれる人や親切にしてくれる人、仲間が大好きだ。だから、そういう人達が傷つけられたり、俺に危害を加えようとすれば容赦なく殺す。俺はそういう人間だ。」


 威圧を込めた声でそう言う。


「つまり、俺はあんたに気に入られた、と?」


「簡単に言えばそうだな。仲間になってくれとまでは言わない。俺なんかの仲間だとバレればお前は間違いなく殺されるだろう。俺はそうはなって欲しくない。」


「なるほどな。ますますあんたを気に入ったよ。」


 そう言って豪快に笑う兵士。まるで俺を恐れていないような。ただの友達と話すような感覚だった。


「そうかよ。まあいい。身分証の発行と幾つか情報を貰えるか?」


「ああ。そりゃあ構わねぇよ。あんたの名前は?」


 そう聞いてくる兵士。俺の名前は知られていないのか?


「ちょっと待て。俺の名前は知られていないのか?」


「ああ。ただ、夜空の様な紺色の髪に深紅色の眼をした人間だ。とな。女の姿の時も眼の色は同じだが、似たような色の眼をした奴は普通に居るしな。」


 大分大雑把な情報しか知られていないようだな。流石におかしい。あれだけのことをしたというのに名前すら知られていないと言うのはあまりにも都合がいい。政府の上層部のみが知っている…?いや、それとも、俺が呪いを掛けられた原因すら知らないからそもそも情報が出回っていないとかか?まあ、どちらにせよ、まずはこの兵士と友好関係を築くのが最優先だな。どうせ俺には無限に時間があるんだ。


「なるほどな。まあいい。俺の名前はルインと言う。」


「ルインか。昔の言葉で破滅や破壊を意味する言葉か。そういえば、ファミリーネームは無いのか?」


「あるにはあるが、心の底から信頼出来る仲間にのみ明かすと決めている。」


「そうか、分かった。ではルインという名で身分証を発行しよう。念の為男と女で2つ身分証を作るか?」


「ふむ。そんな事も出来るのか?」


「まあな。名前を変えて発行すれば簡単だ。」


「では、頼もう。女の名前の方は……そうだな……クロエにでもするか。」


 ルインてのは破滅とか破壊って意味だしな。創造ってのは確かクリエイトだったはず。だがそのまま名前にするのも変だからな。ちょっと文字ってクロエにしたって訳だ。


「分かった。女の方はファミリーネームは付けるかい?」


「いや、付けなくていい。どうせ小さな村出身と言うことにするんだ。」


「分かった。では発行する。こちらにきて此処に魔力を注いでもらえるか?」


「ああ。」


 そう言って兵士の方へ近づく。そこには2枚のカードのような紙とその下に魔法陣の様な模様が描かれた台座?があった。


「あ、あんた、呪い持ちなら魔力を扱えないんだったか?」


「ん、いや、普通はそうだが俺は別だ。魔力を放出するくらいならできる。魔法は使えないがな。」


 そうして、その2つの魔法陣に魔力を流し込む。すると、次第に魔法陣が光り、それに共鳴するように紙も光る。魔力を流し込んでいると、次第に光を放っていた魔法陣と紙が光らなくなる。頃合かと思い、魔力を流し込むのを止める。


「よし、これで終わりだ。」


 そう兵士は言い、俺にその2枚の紙を渡す。だが、先程の様な、ただの紙では無く、その紙は鉄のように固くなっていた。だが、重いわけではない。ちゃんと紙の様に軽い。不思議な物だ。


「これで、なんの問題もなく街を出入り出来るんだな。」


「ああ。それを検問所で出せば入れる。」


「ありがたい。あんた、名前は?」


 そういえばまだこの兵士の名前を聞いていなかった。親切にしてもらったしな。名前くらいは覚えておかないと失礼だろう。


「ん?俺か?俺はブロスだ。そういえば、あんたは情報も欲しいって言ってなかったか?」


「ああ、そういえば言ったな。もう良いんだ。」


 俺の名前が知れ渡っていないという事は分かったしな。


「そうか?まあ、あんたが良いなら良いんだが。男の姿で出る時は、髪の色か眼の色くらいは変えといた方がいいぜ。流石に男の姿のあんたは伝承と似すぎてる。怪しまれちまうだろうからな。」


 そう言って背中を軽く叩きながら笑う兵士。本当に変わったヤツだ。まあいい。とりあえず、場所によって性別を使い分けていこう。


「そうだな。俺はそろそろ行くが、この街のオススメの飯屋とかあるか?」


「飯屋か…なら、石窯亭のビーフシチューとかどうだ?あれは絶品だぞ?」


「そうか。ありがとな。これは、身分証の発行料と情報量だ。またいつか会おう。」


 そう言い、ブロスの手に金貨を2枚握らせる。


「良いってことよ。言ったろ?俺は自分の目で良い奴だと思った奴にはとことん協力してやるってよ。俺はあんたを良い奴だと判断した。またいつでも協力してやるよ。」


「ああ、ありがとな。」


 そうブロスに礼を言い、再び女の姿になり、髪色も紺色から銀髪にする。そして検問所を出て、街に入る。

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