第18話
「何がどうなってんだよ!なんで言ってくれなかった!?」
車に乗るなり、リーダーは運転席に身を乗り出しタカを問い詰めた。タカもそう来られることは予想していたようで、エンジンをつけることなくリーダーに向き合った。
「黙っててすまない。でもこれが兎本にとってもグループにとっても最善だと思った」
「なんだよそれ...」
「兎本も気づいてるだろうけど、今の事務所は何もかもずさんすぎる」
「それは...」
リーダーは思わず口ごもった。売り込みやスケジュール管理、イベント企画や物販など、思うところはたくさんあった。
全員揃って活動できなかった期間も、何か新しいことに取り組もうとメンバーで話し合って事務所に提案したが取り合ってもらえず、事務所とタレントの間に溝があることは明らかだった。
「このままではいつか頭打ちする。俺たちの努力だけでやるのには限界があると思わないか?」
リーダーは辻を前にしていた時とは打って変わって、眉を下げ情けない表情をしている。
「デビューさせてもらって感謝するべきだろうが、俺はそれ以上にあの事務所が許せない」
売り込みの新規開拓もせず、リーダーの枕営業で仕事を取っていたと知った時には怒り心頭に発した。事務所に対する不信感は今までにもたくさんあったが、本格的に移籍を考え始めたのはこれがきっかけだった。
タカがここ最近忙しそうにしてたのは、移籍させてもらえそうな事務所を探したり、情報を集めるため人と会っていたからだった。
そして調べれば調べるほど、辻の事務所がいかに優れているか知ることとなった。
「それならそうと、なんで話してくれなかったんだよ」
「それは悪いと思ってる」
何も形が決まっていない状態で話してしまったら、責任感の強いリーダーのことだ、きっと考えすぎてしまう。タカの思いを察することはできたが、リーダーは寂しく思った。
「タカはいきたいのか?向こうの事務所に。もし俺や他のメンバーが残るって言っても」
「一人ではいかない。いくならみんな一緒だ」
「辻社長はタカの才能を買ってた。もしタカだけでも移籍したら、向こうでもっと人気になれるかもしれないんだぞ?」
「それで売れたとしても、そんなものに何の価値も感じない」
その言葉を聞いてリーダーは胸の奥が熱くなるのを感じた。素直に嬉しいと思った。
「それに伯父は身内だからって優遇するような、そんな優しい人間じゃない。さっき俺だけ来てくれたらいいとか言ってたのは、兎本の反応を見るためだろうな」
「えっ...」
今日リーダーに誰と会うか言わなかったのも辻たっての希望だった。事前に辻と会うことがわかっていたら話すことを準備されてしまうので、その人本来の姿が見えにくくなる。辻はリーダーの自然なリアクションや思考を見たかったのだろう。
タカはなんの説明もなく連れてきたことを悪いと思いつつも、リーダーの人間性を信頼しているから特に心配に思うことはなかった。
「伯父は実力に見合った評価をする人だ。努力しないやつは蔑ろにされるかもしれないけど、俺たちのグループにそんなやついないだろ?」
リーダーはコクリと頷いた。人一倍メンバー思いのリーダーだから、みんなの頑張りを誰よりも見ている。
「俺はみんなの夢が叶えられる選択肢を取りたい。だからみんなの話を聞きたい」
「分かった。俺が言い出したことだ、メンバーには俺から話す」
「ありがと、でも俺から話すよ」
リーダーはきっとこう言うだろうとは予測していたが、少しは肩の力を抜いて欲しいとも思う。
「予定が合えば明日みんなを集めよう」
リーダーが頷いたのを確認して、タカは車のエンジンをかけた。
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