第15話
翌日。
今日は音楽番組の収録のためメンバー全員でテレビ局に来ていた。
他のアーティストたちはまだ楽屋にいる中、今回新曲をテレビ初披露するTHE ZOONは、ひと足先にスタジオの雰囲気を見に行くことにした。
猪「......。」
虎「ウリ緊張してる? 大丈夫だって!なんとかなるってば〜!」
表情は何ひとつ変わらないが緊張しているウリと、能天気なトラ。他の3人も遠くからではあるが、真剣な眼差しでスタジオの立ち位置を確認していた。
「とがちゃーん!!!」
そろそろ時間なので一度楽屋に戻ろうか、などと話していたら、背後からバンビの本名が由来であろうあだ名が呼ばれた。
鹿「辰己、なんでいんの?」
バンビに駆け寄って来たのは白の衣装に身を包んだ長身のイケメンだった。バンビは可愛らしい顔を少し歪めた。
辰「なんでって、一応俺もとがちゃんと同じアーティストやで?出演リスト見てないん?」
鹿「知らない。見てない」
辰「俺一番にとがちゃんのグループチェックしてんけどなぁ。冷たいなぁほんま」
鹿「で、なにか用?」
辰「別に、ただ挨拶したかっただけ!今日新曲やろ?本番楽しみにしてるな!じゃあ!」
そう言って去っていった。
2人のやりとりを見てすかさず反応したのはトラだった。
虎「バンビ!タッツーと知り合い!?」
鹿「なに、あいつそんな有名なの?」
興奮気味のトラと打って変わって冷めた目のバンビ。
虎「有名も何も、今日本で一番キテるアイドルじゃん!!」
鹿「へぇ」
兎「バンビからしたら幼馴染だし、そんな感じしないのかもな」
鹿「そうかもね」
THE ZOONよりも早く他の事務所からデビューしたアイドルグループのメンバーの一人である辰己は、バンビの幼馴染だった。小学生の頃辰己が関西から引っ越してきて以来、今でも腐れ縁は続いていた。
彼のグループは今とてつもない勢いで注目を集めており、CD、DVD、音楽アプリなどの売り上げランキングでは当然のように首位に立つ人気っぷり。しかしバンビはあまり興味がないようだった。
虎「タッツーって関西の人なんだ!テレビでは標準語で話してるのに!」
兎「事務所の方針かもな」
猪「辰己さん、"国宝"って 言われてる」
鹿「国宝?なんで?」
猪「かっこいい から」
鹿「そうなの?小さい時から見てるから分かんない。ウリやタカの方がかっこいいと思うけど?」
虎「ちょっ!俺は!?」
兎「俺も同じメンバーの贔屓目かもしれないけどそう思うかな〜」
リーダーがそう言った瞬間、場の空気がピキッと凍りついた。
鹿(チッ、余計なこと言っちゃったじゃん)
猪(リーダー俺のこと かっこいいと思ってくれてるんだ...)
虎「リーダー俺は!?」
そんな空気を察したのか、すかさずタカが号令をかけた。
鷹「時間だぞ」
兎「ほんとだ、そろそろ準備しないと!ありがとなタカ!」
タカの後ろをリーダー、その次にニヤケ顔(表情は大して変わらない)のウリが続く。
「俺は...?」としょげるトラの背中をバシッと叩いて「さっさと行くよ!」と叱るバンビ。
なんだかんだでバランスの取れた仲のいいグループであった。
「THE ZOONさんありがとうございました〜!」
司会の言葉と同時にカメラに向かいメンバー全員で頭を下げる。パフォーマンスは無事成功した。観覧席もそれなりに沸いた。
収録終わりに他のアーティストたちと軽く話しをしていたが、新曲はなかなかウケが良く、メンバーはみな胸を撫で下ろした。
「兎本いいか?」
「おう、準備完了!」
他のメンバーとは局で別れ、2人はタカの車に乗り込んだ。今からタカの会って欲しい人に会いに行く。
車に揺られること数十分、着いた先は、
「ここって...」
誰もが知る大手芸能プロダクションの会社ロゴが打ち付けられたビルを見上げて、リーダーは唖然としていた。
「行くぞ」
「えっ、ちょっ...!本気かよ...!?」
タカは動揺するリーダーのことを置いて建物の入口へと進んでいく。リーダーは一抹の不安を抱えながらその後をついていった。
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