第12話
あの日から週に1度、多ければ2度、リーダーとタカは2人で会うようになっていた。
目的は、リーダーが今まで受けてきた枕営業という名の性暴力の記憶を上書きするため。
あの日タカが言った『お前がやられて嫌だったことも、やって嫌だったことも、全部俺が最高の記憶に塗り替えてやる』という言葉は本当だった。
リーダーは枕営業で相手をした男たちとは痛くて苦しくて嫌悪していた行為も、タカとなら気持ちよく心地いい快楽になることを知った。
初めてタカと体を繋げてからというもの、毎晩見ていた悪夢にうなされることもなくなっていた。
リーダーにとってタカは心の支えであり、タカ自身も、メンバー愛と責任感が強く一人で抱え込みがちなリーダーを支えたいと思っていた。
いわゆる"仕事上は"相思相愛だった。
今日は歌番組の収録前にレッスンスタジオで最終のチェックを行う予定になっていた。
3番目にスタジオに入ったバンビは目の前に広がる光景に顔を歪めた。
「おかしい」
腕を組み、その可愛らしい顔に似つかわしくない低い声でそう言った。
(最近リーダーの様子がおかしい)
視線の先には週末収録するテレビ番組の台本を読んでいるリーダーがいた。その隣にはタカ。
1冊の台本を2人で読んでいるわけなので必然的に距離が近くなるのは分かるが。バンビは小さく舌打ちした。
「ねぇ、近いんだけど」
2人の間に割って入りドシッと座った。
「おぉ、バンビ!おつかれ〜」
「ずっと前からいたよ。気づかなかった?」
「えっ!?あぁ、ごめんごめん!バンビちゃん怒んないで...!」
「て言うか、台本1冊しかないわけ?」
「俺家に置いてきちゃってさ、タカに見せてもらってる」
(チッ...)
バンビに睨みつけられたタカは、しらこい顔でどこか遠くを見ている。
「そう言えば、この前僕のピアス貸したでしょ」
「あぁ、あの時は助かったよ!ありがとね!」
「SNSに載せた写真にそのピアスが写ってたらしくって、ファンの間で噂になってるらしいよ?」
「噂? どんな...?」
「僕とリーダーができてるって!」
バンビは反対側に座るタカに聞こえるよう気持ち大きめの声でそう言った。
「できてる...? え、なんで?」
「僕がつけてるピアスをリーダーもつけてた、ただそれだけの理由。
それでね!カップリング名が"しかうさ"って言うんだって!あとは"草コンビ"とか!」
「草コンビ?なんだそれ?」
「鹿も兎も草食でしょ?だから草コンビ!」
「ウリもイノシシだから草トリオじゃないのか?」
「あれは雑食だから論外。
理由は薄いかもだけど、火のないところに煙は立たぬって言うし、僕たち知らないうちにそれっぽいことしちゃってたのかなぁ...?」
バンビは絶対盛れる斜め下からの上目遣いでリーダーの顔を覗き込んだ。
「へぇ〜、じゃあ俺とタカなら"うさたか"になるのかな?」
バンビのキメ顔なんぞどこ吹く風。リーダーは無意識にそんなことを考えて、あまつさえ口に出してしまっていた。
「もう知らないッ!!」
案の定怒ってしまったバンビはフンッ‼︎とそっぽを向いて立ち上がった。
「バンビちゃん!?なんで怒ってんの!?」
突然のことに動揺するリーダーに対して、タカは触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに事の終わりを静かに待った。
「もう"弱肉強食コンビ"とかでいいんじゃない!?」
バンビは吐き捨てるようにそう言いスタジオから出て行ってしまった。
(あの鈍感うさぎ!!リーダーなんて大きらい!!!)
バンビの心の声は、いまだスタジオでオロオロしているリーダーに届くことはなかった。
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