第13話
今日は公式サイトにあげるショート動画を撮影するため、事務所に集合することになっていた。
「おはよぉ、ウリ〜」
「おはよう リーダー」
「今日はいつにも増して早いな!」
「う ん...」
リーダーもかなり早めに着いたつもりでいたが、ウリはすでに身支度まで終わらせていた。
それに、今日のウリにはいつもの落ち着きはなく、どこかソワソワしていた。
「どうした? なんかあったか?」
様子がおかしいことに気づいたリーダーはすぐにそう聞いた。ウリは話したいことがあるのか、口を開いては閉じてを繰り返す。返事に時間がかかるのはいつものことなので、リーダーは答えが返ってくるのをのんびり待った。
「ぅうん...。なにもない...」
「そっか」
結局原因はわからないままだが、他のメンバーも集まり始めたのでこの話は一旦終えることにした。ウリも大事(おおごと)にしたくないだろうというリーダーの気遣いでもあった。
「リーダー!今日飲み行こー!」
撮影が終わると同時にニッコニコのトラがリーダーに駆け寄って行った。
兎「いいね〜!行こうか!」
虎「よっしゃー!そしたら俺らはお先〜!」
鹿「は?僕も行くけど」
猪「...おれも」
虎「げっ...!!」
兎「よし、じゃあみんなで行こう!タカはどうする?」
鷹「悪い、今日はパス」
兎「そっか。最近忙しそうだな」
鷹「そうでもない。また今度な」
そう言って早々と部屋を出て行った。近頃こういうことが多く、メンバーが理由を聞いてもはぐらかすばかり。
リーダーとタカが行っている"記憶の塗り替え"の為のセックスは今も続いていて、タカは忙しい中でもリーダーとの約束を守っていた。
リーダーはタカが誰と何をしているのか気になりもしたが、あまり踏み込むべきではないと思い聞けずにいた。
「この前いい感じの店見つけたからそこ行こ〜!おばんざい居酒屋」
「意味分かんない、じいさんじゃあるまいし。焼肉か鉄板焼きがいい」
トラとバンビが言い合いをしながら先に部屋を出る。リーダーもそれに続こうとすれば、後ろから呼び止められた。
「リーダー...!」
振り返れば普段あまり大声を出さないウリが、切羽詰まった表情でリーダーを見ていた。
「リーダー、これ...」
ポケットに入れていた手を抜き、意を決したように握っていたものを差し出した。
手のひらに収まる程の小さな可愛らしい袋。
「これ俺に...?」
「うん」
先程口ごもっていたのはこれを渡すためだったのかと合点がいった。まさか自分にプレゼントを渡そうとしてくれていたとは予想しておらず、ニヤニヤと笑みが溢れる。
「ありがと! なんだろ?開けていい?」
コクリと頷いたのを確認して、リーダーは丁寧に袋を開けた。
「うわー!めっちゃ綺麗...!」
リーダーの手には蛍光灯の光を浴びてキラキラと輝くピアスが乗っていた。
「これもらっていいの?」
「うん」
「嬉しい!ウリ、ありがと!」
ウリは自分が渡したピアスを大事そうに撫でるリーダーを見て頬が緩むのを感じた。その後すぐにトラが2人を呼びに来たのでそこで話は終わったが、ウリの心は幸福感と充実感でいっぱいだった。
後日、
「ウリ!このピアス、ファンの方からすごい好評なんだ!」
今もリーダーの耳にはあのピアスが光っている。それを見てウリは心底嬉しそうに微笑んだ。
「これハンドメイドだよな?」
「うん。母さんの友達が 趣味で作ってる。リーダーに似合うデザイン、俺 考えた」
「ウリが考えてくれたのか!?すごいな!ありがと!」
もう何度目かも分からないお礼の言葉に、ウリは勇気を出してリーダーにプレゼントして本当に良かったと思った。
「俺も...同じの つけていい...?」
ウリはこの勢いで、ずっと心の中に秘めていた願いを話した。自分で言っておきながら動揺するウリをよそに、リーダーはニコリと微笑んだ。
「もちろん! あ、でも...、そうだな〜...。
うん。ウリ、少し待ってて!俺もウリに似合うピアス探してみる!」
続けて「俺もウリにお返ししたい」と言った。
ウリはお揃いをつけたい気持ちもあったが、何よりもリーダーが自分にプレゼントしてくれることが嬉しくて、首を大きく縦に振り、言葉にならない喜びを表した。
リーダーがこう言ったのには理由があった。もちろんウリに似合うものを探したいという気持ちも本心。ただ、以前バンビのピアスをつけたことで、ファンの間で"付き合ってる説"が浮上したという話が気になっていた。
お揃いのものをつけた日には必ずや新説が生まれることが予測できたので、ウリに嫌な思いをさせたくないと思った。
「今度タカとピアスを見に行く約束してたんだけど、ウリがプレゼントしてくれたし。その日はウリのピアスを探しに行こうかな!」
「......タカと...?」
「うん、タカセンスいいしな!......って、ウリ??」
見るからにシュン...となるウリにリーダーは慌てた。ウリはどれだけダサくても、リーダーが選んでくれたものなら喜んでつけるし一生の宝物だった。だからリーダーだけで選んでほしかった。
そんな切なる願いがリーダーに届くことはなく、「ピアスより他のものがよかった!?」などと、ほとほとお門違いなことを言っている。
「ピアス 楽しみにしてる」
ウリは困らせたくない一心でなんとか取り繕ったが、本心からそんなこと思えなかった。
(リーダーに選んでほしい。気づいて...!)
メンバーの変化には人一倍敏感なリーダーだが、肝心なところが超鈍感。ウリの気持ちに気づく日は訪れるのだろうか。
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