第4話


「実はね、あの局の女プロデューサーは君と枕したいんじゃなくて、君が誰かとセックスしてるところを見たいようなんだよ」


社長はボールペンをいじりながら少し申し訳なさげにそう言った。

今日も仕事終わり社長室に呼び出されたリーダーは、枕営業の指示を受けていた。


「そうですか。わかりました」


リーダーはいつものように淡々と返事をする。実質拒否権はないし、拒否する気もなかった。


「それでね、相手のご指名もあって...」


その後に続く社長の言葉に、リーダーの目の色が変わった。



「メンバーは巻き込まないって約束ですよね?」


「そこを何とかならないかなぁ??ほら!虎谷くんとかチャラそうだし...!

頼むよぉ!大きな仕事に繋がるだろうし、グループのためなんだよぉ!!」


社長は、次のセックスの相手はメンバーの誰かだと言った。それが例え大物プロデューサーからの要望であっても、リーダーは断固として承認することができなかった。


「すみません、無理です。メンバーはこの件に関わらせない、そういう約束のはずです」


「そんなこと言わずにさぁ!!」


お互い一歩も引かず、いつもより声が大きく荒っぽくなる。埒があかず無言の睨み合いが続いた。

すると突然、後ろのドアが開いた。





「そういうことか」


「ッ...!! タカ......!?」


社長室にノックもなしに入ってきたタカは、驚きと焦りで動揺するリーダーには目もくれず、社長へ体を向けた。


「その相手、俺がやります」


「ッ!? 何言ってんだよ!!」


「やってくれるのかい!?さすがは鷹取くん!早速セッティングするよ!」


「ちょっ...!社長!約束と違います!!」


「約束も何も、鷹取くんが自分からやるって言ってるんだから、ねぇ?」


「ッ!! タカ!お前バカかよ!!自分が何言ったか分かってんのか...!?今からでも撤回しろ!!」


「しねぇよ。 社長、日にち決まったら教えてください」


「はいは〜い! ...あーもしもし!はい!前回のお話ですが、なんと当グループの鷹取というメンバーとですねぇ...!」


「待って!社長!!!俺だけで大丈夫です!ちゃんと満足させるから!!俺だけでッ...!!」


タカに腕を掴まれドアへと引っ張られていくリーダーの声は、嬉々として電話をする社長には届かない。

リーダーは腕の拘束を振り払おうとしたがびくともしない。社長室のドアが閉まるや否や、すさまじい力で壁に押し付けられた。


リーダーは背中の痛みに顔を歪めながら相手を睨みつけたが、タカは無表情でリーダーに詰め寄った。


「お前ずっと枕営業してたのか?」


リーダーは口を固くつぐんで目線を逸らした。


「メンバーにも言わず、お前一人が汚ねぇことして仕事引っ張ってきて。それが立派なことだとでも思ったか?」


「違う...」


「じゃあなんだ?人気も知名度もねぇのに仕事もらえてぬか喜びするメンバーを嘲笑ってたか?」


「違う...!!」


「なにが違う。 "慈善活動"とでも言う気か?」


「そんなんじゃない!! 俺は一人じゃ何も出来ないんだ!みんなのおかげでデビューできてほんとに感謝してる! だから...、だから...!」


「だから自分一人が犠牲になればいいって?」


「ッ...!」


「デビューできたのはお前自身が努力したからだろうが」


タカは目を見てはっきりとそう言い切った。

それに対してリーダーは眉間を寄せて俯き、何も言い返すことはなかった。


「不服そうだな。 まぁいい。

あと何日かしたら俺とヤることになるんだから、せいぜいフェラの練習でもしてろ」


「お前ッ......!」


タカは冷たくそう言い放ち、薄暗い廊下に消えて行った。

リーダーは追いかけることができなかった。今まで自分がひた隠しにしていたことがメンバーにバレてしまったショックで足元から崩れ落ちた。


.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る