テセウス
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テセウス
自分が自分として成り立つものとはなにか?
肉体?魂?脳みそ?
もし、その全てが昔の自分と別物だった時自分は自分と言い張れるのだろうか?
俺の名前はかずき
俺は10年前事故で死んだ
そんな俺をマッドサイエンティスト気味の親父が、死んだ俺の体を改造しアンドロイドとして生き返らせた
俺が生き返ってから10年・・・・・親父は一般的な成長に合わせて俺の体の部品を俺が寝ている間に取り替えてきた
ただ1つ脳みそを除いて・・・・・・・・・・・・・・・・・・
___________________________________
「かずき・・・お前に言わなければいけないことがある・・・・・」
神妙な面持ちで話すのは、現代科学史上最高の頭脳と謳われている俺の親父だ
「何だよいきなり・・・」
普段のおちゃらけた親父とのギャップに戸惑いながら俺は聞く
「実はな・・・」
親父は濃いくまがついた目で俺を真っ直ぐに見据える
「父さんは・・・お前の脳みそを取り替えることにした・・・・・」
「は・・・?」
俺は衝撃のあまり固まる
「かずき・・・」
親父はそう言いながら俺の方に手をやろうとするが、俺はそれを払い除ける
「どういう事だよ!?脳みそは取り替えなくてもいいって言ってたじゃねぇか!?」
「あぁ、たしかに言った・・・言ったけど・・・聞いてくれ・・・・・」
そう言うと親父は何枚かの紙を取り出し、俺に見せる
「これはお前の脳みそのレントゲンや脳波、その他諸々を記録してきた資料だ・・・」
そう言って親父は資料をめくっていく
「ここ数ヶ月お前の脳波に軽い異常が見られた・・・最初はお前の成長によるものだと思っていたんだが・・・最近その異常が顕著になり始めた・・・そこで私は、お前が寝ている間に精密検査を行った・・・・その結果がこれだ・・・」
そう言うと、親父は一枚の紙を俺に見せる
「・・・・・?」
紙にはドイツ語で何か書かれていた
「断言する・・・お前はこのままだと1ヶ月後・・・自分の体を動かすことによる負荷に耐えられなくなり脳死で死ぬ」
「は?」
「元々、人間だったものを無理やり機械に変えたからな・・・人間の脳みそでは負荷に耐えられなかったんだろう・・・」
親父はそう言うとボロボロの椅子に腰掛け、俺に背を向け口を開く
「期限は1ヶ月以内・・・それまでに答えを聞かせてくれ・・・脳みそを取り替えるのか・・・それとも・・・・・・・・・・」
親父は言葉を切るがしばらくして
「死ぬのか・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
親父と話した後、俺は河川敷で昭和の漫画のようにたそがれていた
親父は俺に生きて欲しい・・・俺もまだ生きたい・・・・・
でも脳みそまで取り替えた時俺は・・・・・
「あれ?かずき・・・?」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえたので振り返ると、幼なじみのゆかがいた
ゆかは俺がこんな体になっても離れずにいてくれた数少ない人の1人で、俺の片思いの人だ
「ゆか・・・どうしたんだ?こんなところで」
「お母さんに買い物を頼まれて、その帰り・・・そんなことよりかずきこそ何か悩んでるんじゃないの?」
「どうしてわかったんだ?」
「表情には出てないけど、なんとなくね・・・」
「ははっ・・・かなわないなゆかには・・・実は・・・」
俺は親父から言われたことをゆかにすべて話した
「なるほどね・・・・・・わかった」
そう言うとゆかはおもむろに立ち上がり、俺の前に来てしゃがむと
「明日、シッピア遊園地に行きましょ!けんごも誘って!!」
「え・・・?」
「拒否権は無し!いいわね?」
「え・・・ちょ・・・・・」
「い・い・わ・ね?」
「ハイ・・・・」
ゆかに押し切られる形で明日の遊園地行きが決まった
翌日
俺は遊園地の入り口でゆかと合流する
「おまたせ~」
ゆかと話しているとけんごが歩いてるのか、走ってるのかわからない速度で遅れてやってくる
「遅いわよ!けんご!!」
「ごめ~ん」
ゆかに怒られ、けんごが謝る
けんごは俺がこんな体になっても離れなかったうちの1人で
俺のただ1人の友人であり親友だ
「あ~、かずき~話はゆかから聞いたよ~色々考えてることはあるのかもしれないけど、とにかく今日はたのしも~!」
そう言うとけんごはまた、歩いてるのか走ってるのかわからない速度で入場ゲートに向かう
「・・・・・・・・・・・・・・・あぁ!!」
そう言うと俺はゆかの手を引き、入場ゲートに駆け出す
「まって~!ふたりとも~!!」
俺たちに追い越されてけんごがさけぶ
それから俺たちは暗くなるまで遊園地を楽しんだ
「もう暗くなっちゃた~」
「そうね、でもあと5分位でイルミネーションが始まるらしいからそれを見てから帰りましょ!」
「それじゃぁ、始まるまでの間に僕はトイレに行ってくるね~」
そう言うとけんごはトイレに向かって歩いて行くが
「あっ!」
そう言ってけんごが再び俺たちの方にやってくる
「ねぇ、かずき・・・かずきは多分難しい事を今考えてると思うんだよね・・・でも」
けんごは俺をまっすぐ見る
「かずきはかずきだよ?どんな形であっても・・・」
しばらくの沈黙の後
「まぁ、詳しいことはゆかが言ってくれるよ!!多分それ以上のこともね!!」
そう言うとけんごはトイレに精一杯駆けていった
「あいつって頑張ったらあんだけの速度は出せるんだな・・・・・・で・・・」
俺はゆかに向き直る
「けんごが言ってたけど詳しいことって?それ以上のこともって言ってたけど・・・」
「えっ!?」
ゆかの顔が途端に赤くなる
「えっと・・・だから、つまり・・・」
ゆかはなにやらモニョモニョ言った後、俺の目を真っ直ぐ見ると
「私達が言いたいのはたとえかずきの体のすべてが別物になったとしても、今までかずきと作ってきた思い出は変わらないし、かずきが私達の大切な友達であることに変わりはないってこと!!それと・・・・・・」
そう言うとゆかは再び、言いよどむ
「それと?」
「あの・・・だから・・その・・・あぁ、もう!!」
そう叫ぶとゆかは俺の目をまっすぐ見つめ
俺の方へゆっくりと歩みを進めると少しだけ背伸びを・・・・・
「!!!」
「これが、私からのあなたへの思い!」
「え・・・あ・・・」
顔を真っ赤に染めたゆかを見つめながら、俺は口をパクパクさせる
口にはまだ柔らかい感触が残っている
「その・・・・・わがままかもしれないけど、これからも私はあなたのそばにいたい・・・・だから・・・」
そう言っているゆかの目に涙が溢れ出す
俺はそのしずくが落ちるより早くゆかを抱きしめた
翌日
あれから家に帰った俺は親父に脳みその交換を頼んだ
「いいのか?かずき・・・脳みそを取り替えるとお前は事実上別人になるんだぞ?」
「いや、それは違うよ・・・」
親父の問いかけを俺は否定する
「たとえ俺の体が全て別のものに入れ替わっても、それを俺だと言ってくれる人がいる・・・・・大切に思ってくれる人がいる・・・それで十分だよ・・・」
「そうか・・・」
そう言うと親父は目に涙を浮かべ話し始める
「本当は、ずっと悩んでいたんだ・・・お前と一緒にいたい・・・そんな私のエゴで生き返らせてしまった・・・そんなお前がこの先苦しまないか・・・でもその心配は無用みたいだな」
「あぁ・・・」
俺はそう答えると手術台に横になる
「これからお前は1ヶ月後かけて少しづつ脳みそを取り替える・・・その間お前は昏睡状態だ・・・手術前になにか言いたいことはあるか?」
「あぁ、1つだけ・・・」
「なんだ?」
「父さん・・・生き返らせてくれてありがとう」
「・・・・・!・・・どう・・・いたしまして・・・」
そう言うと父さんは手術室を出て、オペレーション室に向かう
[これより麻酔を部屋に充填する・・・・3・・2・・・1]
(プシュー・・・)
1ヶ月後
[覚醒ガス充填から10分・・・・・かずきさんの起床予想時間です・・・]
「う・・うぅん・・・・・」
[あー、あー・・・一応確認だが・・・お前は誰だ?]
「俺はかずきだ」
「テセウス」
~完~
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