第3話 圧倒
教室を飛び出した英子と圭は、めったに人が来ない学校内の最奥にやってきた。英子が花壇に水やりをする場所だ。人の気配はないが日当たりはよく、何色ものチューリップが風で揺れている。
圭は校舎の壁に背中をつけて、うずくまったまま動かない。ここまで連れて来てしまったものの、英子は圭にどんな言葉をかければいいかわからない。落ち込んでいることは確かだが、その原因は。
「……ゆうちゃんと何かあった?」
「英子ちゃんには関係ない」
勇気を出して声をかけたが、圭は英子を見もせずに否定の言葉を告げてきた。英子の心が折れる。この場にいるのは気まずくて、英子はじょうろを取りに行った。
水を入れて重くなったじょうろを運んでいると、圭の怒鳴り声が聞こえてきた。何かあったのだと、じょうろをその場に置いて駆けつける。
「なんで教えてくれないの?」
「別に僕から聞かなくても、ゆうが直接聞けばいいじゃん。真とも幼馴染なんだから」
「だ、だから、聞きづらいじゃん! 幼稚園の頃から一緒にいるのに、好きな女の子のタイプなんて聞けないよ!」
英子が近くまで行っても気づかれない。
口論されている内容から状況を察した。好きな子から自分以外の男の好みを聞けと言われたら、圭からすれば脈なし宣言だ。強い思いがある分、精神的ダメージも大きかっただろう。
圭がどれだけ熱い気持ちを持っているか知っている分、無神経なゆうに苛立った。
二人の間に英子が割って入る。
「ゆうちゃん、自分のことなんだから、自分で解決して。圭くんを困らせないで」
「英子? 何でここに……」
疑問を覚えたのは一瞬で、ゆうはすぐに全てを理解したかのように微笑む。
「そっか。二人はそんな関係なんだね」
「違う! 圭くんはっ」
英子が怒りの感情のまま叫んでしまいそうになったが、圭が英子の肩を掴んだ。
「本当に、大丈夫だから」
英子の肩に置かれた手は、わずかに震えている。しかし、圭はその心情を出さずに、ゆうにこれからは一緒に帰れないと告げた。
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