第47話 誘惑迷宮その3

自分の欠片のなに一つだってこの男の好きにさせてやるものか。


頭のどこかではそう思っているはずなのに、回された腕に抗うことなく身を委ねてしまうのは、多分、あの日から心の一部を預けてしまったせいだ。


虎島から向けられるどろりと濁った重たい愛情は、何もかもを諦めていたまりあの胸の奥を甘くくすぐってなぶっていく。


これは正解ではないのかもしれない。


いや、そもそもこの世界に正解なんてあるのだろうか。


これだけ沢山の人間が生きていて、〇を貰える答えが一つであるはずがない。


だから、譲ったり、諦めたり、受け入れたりして、自分なりの正解を探すより他にないのだ。


最後まで、幸せになるために。


抱き寄せた腕で腰を撫でた虎島が、嬉しそうに目を細めた。


隙間なく繋がっていることを示すように軽く揺らされて、淡い熱がパチパチとはじける。


けれどそれだけでは満たされない。


焦がれた媚肉が震えて戦慄くのを感じ入るように目を閉じた彼が、まりあの上で静かに息を吐いた。


「・・・蕩けてますね・・・奥まで触ってねぇのに」


低い声で現状を報告されて、迫ってくる男の顔から視線をシーツの上へと逃がした。


追いかけて来た唇が髪の隙間から覗く耳殻をぱくりと食んで、舌を這わせてくる。


ぬるついた舌で耳の後ろまで舐められて、ぞわりと腰の奥が疼いた。


「・・・まりあちゃん・・・・・・緩めて」


苦しそうに呻いた虎島が、慰めるように背中を撫でて来て、心地よさでまた飲み込んだ屹立を締め付けてしまう。


「や・・・だ・・・できな・・・」


快感をコントロールできるものならとっくにやっている。


出来ないから飲み込まれて溺れてなすがままにされているのだ。


堪え切れず最奥を嬲った虎島がそのままぐうっと腰を押し付けて来た。


「出来ねぇなら、俺の好きにしますよ?」


「ぁ・・・っん、んっ」


限界のその奥をねだる動きに爪先を丸めて踵を浮かせてしまう。


逃げる身体を腕一本で押しとどめて、彼が膝裏を押し広げてきた。


「ね?これも気持ちいいでしょ?自分でするよりずっと」


「し・・・て・・・な・・・~っ」


「する時は報告してくださいね?なる早で帰るんで」


虎島が何を目的として早く帰宅するのか想像出来てしまえた自分が悲しい。


どれくらいこの男に毒されてしまっているのか。


「ば・・・か・・・っ」


「あれ?・・・今知りました?」


開き直ったように持ち上げたふくらはぎにキスを落とした虎島が、そのまま唇で肌を嬲ってくる。


熾火のような甘い快感は、腰の奥へと繋がっていって押し広げられた柔らかい場所が蜜でいっぱいになる。


それを嬉しそうにかき混ぜる男の滾り切った表情から目を逸らせない。


もう無理だと思っていた繋がりがさらに深くなって目を見開く。


どうして勝手がわかるのかと叫びたいけれど、恥ずかしくて出来ない。


ぬめる切っ先が触れたことの無かった場所を擦り立てて、枕の端をひっつかんだ。


「ぁ、ゃ・・・っン、ん・・・っ」


束ねた神経を擽られるような愉悦に、満たされて冒されて支配されていく。


閉じた瞼の裏で、じんわりと快感が広がって行った。


口にしたことのない禁断の果実は、こんな味なんだろうか。


シーツに手をついて上体を倒した虎島が、鼻先で首筋に溜まった髪をかき分けてくる。


許しを請うように首筋にキスが落ちて、触れた吐息の熱さに身を捩ったら下腹部を撫でる手のひらがが上がって来た。


汗ばむみぞおちをくすぐってから胸のすそ野を優しく揺らして、凝った尖りを捕まえにやってくる。


指の腹でひと撫でされた瞬間腰が浮いた。


「ん・・・っ」


もっと触れて欲しいのに、柔らかさを堪能するように白い肌に沈められた指はそこには戻ってこない。


もどかしくて唇を引き結ぶまりあの唇を啄んで、虎島が肉厚な舌を伸ばして来た。


鎖骨を味わったそれが、突き上げられるたびに揺れるそこを捕らえて、ねっとりと舐め上げる。


すっかり凝ったそこは男の舌を押し返しては震えた。


嬉しそうに舌先で弾いては転がして、引いた腰を打ち付ける彼の動きには容赦が無い。


細胞のすべてを塗り替えられているような感覚に陥る。


そして不思議とそれが嫌じゃない。


どんな魔法にかかってしまったんだろう。


「・・・・・・ねぇ、もういいでしょ?」


蜜襞をかき分けながら腰を使う虎島が、揺れる視線を迎えに来た。


「・・・・・・ん・・・」


彼が果てたいのだと悟って、無意識に腰に足を絡ませれば。


「・・・・・・ここ、俺にくれません?」


胸の先を摘まんだ手のひらが、じっとりと汗ばんだ項をひと撫でして来た。


びくびく背中を震わせながら、返事を待つ劣情にまみれた男の両の目を覗き込む。


頷いた、世界が一変するかもしれない。


けれど、頷かずとも誰かの意図によって、明日世界が一変するかもしれないのだ。


だったら、いま自分が選ぶのは。


「・・・・・・・・・いいわ」


熱を孕んだ掠れ声に、虎島が貪るようなキスを返した。


初めて自分の意思で、誰かを選んだ夜だった。


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