第44話 夢欲萌芽その2

「・・・あれから毎晩あの夜の事思い出してますよ。ああそうだ。昨日は夢にまで見たな。夢って願望が現れるらしいから、まりあちゃんは、本物より積極的でしたよ」


「っちょ・・・なにを・・・」


「でもまあ・・・こっちの現実にはかないっこないけど・・・」


「んっ・・・・・・」


彼の夢と頭の中で自分がどんな風に乱されたのか、と一瞬でも考えてしまったら、あっという間に身体に熱が宿ってしまった。


視線をそらしたところを追いかけて来た虎島が、それに気づいたように目を細める。


軽く唇を啄まれて、すぐに離れて行った唇に息を吐いたら、戻ってきた舌に唇を割られた。


さっきまで煙草を吸っていたんだろう。


強い苦みが舌に移ってくる。


それを覚えさせるように塗りこめる舌の動きがひどく淫らで、意識を逃がそうとする度に甘く吸っては付け根を扱かれて涙目になる。


まるでこっちを見ろと言い聞かせるような舌技に、まりあは唾液を飲み込むことしかできない。


濁っていく思考と浅くなっていく呼吸は、発情ヒートを思い起こさせて不安になるはずなのに、身体が温かくなるだけで、あの怖い感覚は襲ってこない。


舌裏を擽った虎島が、頬裏をなぞって上顎を擽ってから少しだけ唇を離した。


「こういうキス、好きでしょう?」


「・・・・・・勝手に・・・決めないで」


「じゃあ、身体に訊きましょうか?」


「っ馬鹿な事っ・・・ぁ・・・」


タイトスカートを撫で上げた手のひらが、気まぐれに膝裏を擽って足を開かせようとして来る。


フレアスカートでなかったことに安堵したら、肩を押して中途半端なうつ伏せにされてしまった。


肩にキスを落とした虎島が、お尻の丸みを持見上げてから内ももを撫でてくる。


「ほら、こないだみたいに足開いて教えてくださいよ。それとも後ろから探った方がいい?」


探るようにストッキングんの上から敏感な場所を撫でられて、目の前を星が飛ぶ。


いつ誰がやって来るか分からない応接室で抱かれそうになっている自分が信じられない。


逃げなくては頭では思うのに、滑らかに動いて足の付け根を擽る指の腹が心地よ過ぎて、腰が震える。


たった一晩でこんな風になるなんて。


「し・・・しないで・・・キスは好きだからっ」


必死にソファーの端にずり上がって、涙目で虎島を振り仰いだ。


途端、彼がごくりとつばを飲み込む。


自分の何かが彼の劣情を刺激したことは、すぐにわかった。


肘置きに縋りつくまりあの上から圧し掛かって来た虎島が、ぎしりと座面に乗りあがってくる。


「・・・・・・・・・あー・・・・・・どうしましょうね」


心底迷うような声を上げた彼を振り返るのが恐ろしすぎる。


腕力で敵うわけもないし、何より虎島はまりあの弱点を知り尽くしているのだ。


「どうもしないでよ!」


「俺、この後抜けられない打ち合わせなんですよねぇ」


今思い出したかのようにこの後のスケジュールを告げられて、即座にドアを指さす。


「さっさと行って!?」


「仕事、集中出来そうにねぇなぁ・・・」


独り言のように呟いた彼が、まりあの髪を指に巻き付けて軽く引き寄せた。


顔を傾けた彼が恭しいそこに唇を寄せて、ちらっと流し目を向けてくる。


彼が何を願っているのか訊かなくてもわかった。


が、頷けるわけがない。


「ぁ、やだ・・・なに・・・私にどうしろって・・・・・・」


「ちょっとだけ、気持ちいい事しましょう。バレないように、二人きりで」


言うが早いかまりあの身体を抱き起した虎島が、膝の上に足を開かせて座らせてくる。


腰を浮かせる前に彼が足を広げてしまった。


ひんやりとした空気を感じるのは、それだけ自分の身体が熟れているということだ。


「そ、そうやってまた私の事好きに・・・」


「え、だってまりあちゃん、もう俺のこと好きでしょう?」


一度も口にしていないことを勝ち誇った顔で告げて来た虎島を、まりあが黙って凝視した。


身体から陥落させられたなんて思いたくはない。


思いたくはないけれど。


「~~~っ」


「好きでもない男に、あんな何度も抱かれないでしょ?」


吐精した後も、彼の腕の中から逃げなかったのは自分の意思だ。


だってあの夜は、そうすることが必然のように思えてしまったから。


これが恋かは分からない。


分からないけれど、これが恋ではないなら、多分一生誰も好きになれない気がする。


「~~~っ」


唇を引き結んで視線をそらしたまりあのつむじにキスを落とした虎島が、ぐっと自分のほうに腰を引き寄せて来た。


ぐりっと熱を宿したそれをスラックス越しに押し付けられて眩暈を起こしそうになる。


「ほら、あんたも擦りつけて」


荒く息を吐いた虎島が、首筋にキスを落としながら後ろから手を忍ばせて来た。


もどかしい場所を撫でられて、言われるがまま腰を揺らしてしまう。


「ん・・・・・・いい子だ」


情欲の籠った低い声で囁いた虎島が、施錠してあるから大丈夫、と小さく呟いた。

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