第41話 恋想熱波その1
飽和状態の熱が、身体の中を駆け巡って暴れ回る。
思考全部を根こそぎ奪われて、何かに捕まっていないと自我を保てなくなりそうで、どちらからそうしたのかわからないまま繋いでいる彼の手の甲に爪を立てた。
ジェルネイルでコーティングされた爪の先が他人の皮膚に食い込む感触に、いけない、と息を吐いて力を緩める。
その途端胸の先を嬲っていた彼の唇が弧を描いた。
「・・・好きにしていいのに」
熱情を抱いた低い声の掠れた囁きが肌の表面をくすぐっていく。
敏感になったところに唇を触れさせたまま告げられて、顎を反らして爪先を丸めた。
「っン・・・そこで・・・しゃべ・・・・・・なぃ・・・で・・・」
絶対にわざとだ。
舌先で甘やかされたそこは間接照明の薄明かりの下で淫らに光って見えた。
虎島がまりあの反応を確かめながら何度も刺激を変えて来たので、今はもう一番気持ちいいことしかされていないせいで敏感になった赤い尖りを指で優しく撫でられる。
また愉悦に炙られて、彼の指から逃れて今度はシーツをつかんだ。
これなら誰も傷つけない。
こうなることを望んだのは自分だけれど、虎島に傷をつけることは望んでいない。
それなのに、まるで、まりあのすべてを赦すようなセリフを虎島は口にする。
本当にこの男はとんでもない。
そしてそのとんでもない男の手を、掴んでしまった。
一気に灼熱の海に突き落とされるような、
まりあの表情を食い入るように見つめて来た彼が紡いだ言葉は。
『どうする?』
押しつぶされそうなまりあの心に投げられた問いかけに、彼の手を握ることで返事を返した。
虎島は繋がれた自分とまりあの手を確かめて、初めて眉を下げて笑った。
『俺に抱かれれば、あんたがどれだけ俺に惚れてるのかわかるよ』
みぞおちにキスを落とした虎島が、伸ばした手でシーツを握りしめる指を捕まえに来る。
「気持ちいいなら、シーツじゃなくて、俺に爪立てて」
火照った頬を見られたくなくて、顔を背ける。
これまでの夜は、考える前に熱に溺れてしまっていた。
けれど、今日は違う。
自分の意思で彼に抱かれに来たのだと思うと、それだけで身体中の血が沸騰してしまいそうだ。
「・・・ぃ・・・や」
掠れ声の拒絶に、腕を通して持ち上げた内ももにキスを落とした虎島が、微苦笑を零す。
「・・・・・・ベッドの上ではあんまり聞きたくないセリフだなそれ」
「・・・・・・私・・・爪・・・」
短い自爪ならともかく、それなりに長さもあって強度も強いジェルネイルで引っ掻かれたら、間違いなく傷が出来る。
「俺がいいって言ってる。まりあちゃんは、今夜限りのつもりで、何も残さず終わらせるつもりなんだろうけど・・・そうはさせねぇよ?」
「・・・な・・・ぁ・・・っ」
膝の内側に頬ずりした彼がそのまま感触を確かめるように、白い肌に唇を寄せた。
キスマークを覚悟した途端、かぷりと甘噛みされて目を見開く。
痛みはなくて、怯えるまりあを宥めるようにぺりりと舌を這わされた。
肌の上に残る汗を舐めとる仕草にぞくぞくと愉悦がこみ上げてくる。
「ゃ・・・っ・・・ンっ」
腰を捩ってみるものの、節ばった腕に不似合いな力で押さえつけられて逃げることも叶わない。
「俺は好きなだけあんたの肌に刻んで・・・・・・この奥も満たすつもりだから」
蕩け具合を確かめるように開いた足の隙間を覗き込んだ虎島が、にたりと意地の悪い笑みを浮かべた。
「もう期待してる?」
さっきはおへその周りを撫でるだけだった手のひらが、蜜を滴らせるその場所へ伸ばされる。
溢れて伝い始めたそれを掬うように押し付けられて、撫でられる。
もどかしいくらいの愛撫に吐息が零れた。
もっと触って欲しくて、知らず知らずのうちに腰を揺らしてしまう。
宥めるように花びらの隙間に潜り込んできた指が、凝り始めた花芽を捕らえた。
「~~っ」
蜜をまぶした指で優しく撫でられて、パチパチと淡い熱がはじける。
硬い指の腹が何度もそこを擦り立てて、思考を塗りつぶしていく。
「ぁ、ぁ・・・っん・・・っ」
息を飲んでは吐き出して、そのたび甘痒い熱に冒されて、気持ちいい場所に指が欲しくて身体が震える。
浅く蜜口を撫でた指がまた戻って来てさっきよりも膨らんだ花芽を強く弾かれた。
爪先を丸めると置き去りになっていた胸のすそ野を舐められて、おまけのように胸の先を舐められて一気に爆ぜる。
「んん~~っ・・・っ」
チカチカ光る点滅灯の光が頭の中を埋め尽くす。
虎島から与えられる快感はどれも的確にまりあを追い詰めて攻め立てる。
まるで自分に堕ちろと言わんばかりに。
「もう覚えたな?」
濡れた指を隘路の奥に沈めながら、虎島がこめかみにキスを落とした。
これまでどうやってそこを慰められたのか、まりあの身体は覚えているのだ。
抱えた熱を伝えるようにスラックス越しに腰を押し付けられて、膨らんだ昂りにくらくらする。
額に唇を寄せたまま、虎島が囁いた。
「これまでで一番気持ちいい夜にしようか」
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