第30話 刹那恋情その1

”父さんには話しておいたから、明日はゆっくり休んで”


梢からそんなメッセージが届いたのは、まりあが有栖川警備で突発的発情トランスヒートを起こした数時間後のこと。


虎島の腕の中で満たされた翌朝、重たい身体を起こして、半日ぶりにスマホを見たら、すでに朝の9時を回っていて、完全に遅刻だと慌てるまりあに、近くのブーランジェリーで買って来たサンドイッチの紙袋を揺らして、さっき梢お嬢さんのとこに行って来た、と虎島が告げてきた。


さぞかし心配を掛けてしまったと申し訳なくなって、同時に、回らない頭で虎島の発言を咀嚼して、それはつまりまりあが外泊したことを梢は知っているという事か、と気づいたら、何と連絡してよいか分からなくなった。


お付き合いしている彼氏の部屋に泊まるのとはわけが違う。


いや、それなりのコトをしたのだから、恋人でなかったらもっと困るのだが、まだ二人はそういう関係ではない。


梢は家族挙式までの残り数日を、花嫁エステの施術にあてており、今日もサロンに出かけるはずだ。


幸せいっぱいのプレ花嫁に暗い影を落としたくなくて、結局既読だけしたスマホを再びカバンに戻すことになった。


抑制剤と虎島のおかげで、身体の火照りは綺麗に抜けていた。


ドロドロに溶けた身体を余すところなく探った虎島の愛撫は、最初の夜よりも執拗だった。


さんざん舐めしゃぶられたせいで未だに胸の先が赤いままだし、足の隙間にはしびれが残っている。


目を閉じると未だに彼の吐息が内ももを擽る感覚が甦ってくる。


溢れた蜜を啜っては狭い隘路をまさぐる舌の動きが、まりあを追い詰めようと巧みに泳ぐ節ばった長い指の感触が、いつまでも身体から離れない。


「なんだ、まだ欲求不満か?」


ふるりと震える身体を抱きしめたら、ベッドの端に腰を下ろした虎島が、ひょいと顔を近づけて来た。


「あんなにしてやったのに」


「~~っ」


突発的発情トランスヒートは落ち着いたみてぇだし、改めて今度はちゃんとしようか?」


「ぃ、やです」


「あれ?俺、嫌がられることした?まりあちゃんのこと悦ばせるコトしかしたつもりないだんけどなぁ・・・」


数時間前を思い出させるように頬を指の腹で辿られて、慌ててその手を握りしめれば。


「・・・っ」


シーツに手を突いた虎島が、下から掬うように唇を重ねて来た。


下唇を挟まれて、軽く引っ張られる。


逃げるように仰のけば、今度は上唇を食まれた。


そのまま唇を啄んで、そっと舌が忍び込んでくる。


ゆるりと口内を一巡りした彼が、優しく舌の表面を舐めて来た。


昨夜さんざん交わしたキスのせいか、今もまだ口の中が熱い。


舌先を擦り合わせると、それだけでもどかしくなってしまう。


キスが気持ちいい理由を、深追いしたくないのに。


唇をほどいた虎島が、額にリップ音付きで唇を寄せた。


そのままつむじにもキスが落ちて、膝でベッドに上がった虎島が、軽くまりあの身体を押してシーツに縫い付けてくる。


「・・・・・・あんたキス好きだな」


「~~っ・・・」


「朝飯食う?それとも俺に抱かれとく?」


「・・・・・・二択が極端すぎませんか・・・」


「いやこの状況だし・・・俺はもうとっくにそのつもりだし・・・・・・まりあちゃんもまんざらじゃないでしょ?」


「・・・なっ」


「キスだけで毎回あんなトロトロになんの?・・・だとしたら、あんた相当ちょろい女だけど」


「ちっ違いますっ・・・・・・」


「じゃあ、俺とだけだ」


「・・・・・・・・・虎島さんが・・・・・・・・・アルファだから」


パワーワードをぶつけてやれば、虎島は軽く肩をすくめただけだった。


「後半ほとんど発情ヒート抜けてただろ?」


急に飛んできた問いかけに、息が止まる。


虎島が肌に触れ初めてすぐに抑制剤が効き始めて、あの嫌な疼きはなくなった。


その代わり、押し寄せて来たのは甘痒い淫らなときめき。


久しぶりに自分が人肌を求めている事に気づいた。


虎島の指淫は巧みで優しくて、そのまま溺れてしまった。


オメガのフェロモンが落ち着いたせいで、虎島はその事に気づいたのかもしれない。


「・・・・・・」


黙り込むまりあの両頬を包み込んで、虎島が眉を下げてくる。


「それなのに、俺にされるがままだったのはなんで?」


「・・・・・・・・・」


視線を斜め下に逃がせば、虎島が耳たぶを軽く引っ張って来た。


「俺にされるのが嫌じゃなかったんだろ?」


反対側に視線を向ければ、今度は頬を齧られる。


「・・・・・・・・・っ」


耳の後ろを撫でた指が、するすると首筋を辿ってキャミソールの隙間から胸のふくらみを目指し始めた。


ふにゅりと沈んだ指を上から抑えて彼を睨みつける。


「これから、あんたが目ぇ反らすたび、図星だと思う事にするわ」


「勝手に言わ・・・っん・・・ん・・・・・・っ」


語尾を奪うように唇を塞がれて、もう一度舌を絡め取られる。


今度は舌裏を軽く扱かれて、引っ張り出したそれを甘噛みされた。


そのままピンと胸の先を弾かれて、浅く上り詰める。


「っふっ・・・・・・っンン~っ」


爪先を丸めてシーツを掻いたまりあの踵にキスをして、虎島が、それ食ったら送るよ、と告げて来た。









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