第10話 昼想夜夢その2

様子見するつもりで撫でた蜜口があっさりと震えて、第一関節まで飲み込まれてしまう。


「っ、ん、っ」


「息吐いて、楽にしてな」


足りない熱を吸い上げようと華奢な踵がシーツを蹴った。


男性経験がないとは思わないが、出会った頃の彼女はさっぱり男っ気がなかった。


向ける視線はいつだってまっすぐに梢にだけ向けられており、最初の頃は、梢に近づこうとするたび颯や虎島は親の仇のように睨みつけられたものだ。


蕩けてほどけた隘路をゆっくりと奥まで確かめる。


馴染んでいるとは言い難いが、十分すぎるほどそこは柔らかかった。


唇を重ねただけのキスと、胸への愛撫であっさりと陥落してアルファを求めて蜜を滴らせるオメガの身体は、どこまでも従順で極上の果実のよう。


これを犯さず傷つけず、彼女だけ導くのはよほどの手練れでもかなり厳しいだろう。


惚れた相手に強請られてそれでも抱けないなんて、どんな試練だといるのかいないのか分からない神様を詰りたくなる。


素直な身体は甘えるように蜜襞を震わせて飲み込んだ節ばった指を締め付けてくる。


理性も思考もかなぐり捨ててここに腰を捻じ込めたらどれだけ心地いいだろう。


番のオメガと抱き合うと、二度と他の相手を抱きたいとは思わなくなるらしい。


そんなバカなと適当に聞き流していたが、あながち嘘ではなさそうだ。


腰を沈めたあとのこちらがどれくらい保つのかのほうが若干心配になって来る。


こんな楽しい我慢比べなら、どれだけでも続けられそうだが、それはあくまでも彼女の心が手に入った後の話である。


増やした指を折り曲げて、浅い場所から深い場所をまでじっくりと確かめて反応を窺う。


抱かれ方をきちんと知ってるまりあの身体は、器用に腰をくねらせて、吐息を震わせて、心地よい場所を伝えてくれた。


ぬちゅりと絡みついてくる蜜をかき混ぜて折り曲げて引き戻した指先を奥まで捻じ込む。


一番奥をえぐるように擦り上げると、まりあがつま先を丸めて息を詰めた。


そのまま手のひらで膨らんだ小さな花芽を押し撫でて、涙目のまりあを導いてやる。


「っふ・・・ぁ・・・っっっ」


びくびく腰を震わせて、隘路が柔らかくうねった。


滑らかな動きに翻弄されて無意識に開いたそこに腰を押し付けそうになる。


花の香りはまだ消えない。


一度や二度上り詰めた程度では、発情ヒートは収まらないのだろう。


それならと膨らんだ胸の先を唇で挟んで揺らしながら、言葉にならない嬌声を漏らすまりあの花芽を擦り上げた。


「ひぅ・・・っん、ゃ、ぁん、ぁ、あっ」


枕に頬を擦りつけて髪を振り乱した彼女が必死にシーツを握りしめた。


閉じて来た膝を腕で押し広げてそのまま下腹部に軽く体重を掛ける。


「奥までしてやれないから、ここで悦くなりな」


耳たぶを甘噛みして飲み込ませた指先を揺らせば、彼女が腕の中で大きく震えた。








・・・・・・・・・








完全に意識を手放してシーツの海に沈んだ濡れた身体を申し訳程度に整えてからしっかりと上掛けで包みこむ。


いまだ燻ったままの熱は胎の奥でとぐろを巻いており、それでもここに連れて来た時よりもずっと穏やかな表情になった彼女の寝顔を眺めながら、一人で愉悦に耽るわけにもいかず。


仕方なく冷水シャワーでどうにかしようと重たい腰を浮かせてバスルームに向かって、修行僧のようにひたすら煩悩と戦って戻った後も、彼女は眠り続けていた。


説明の通り、一時間ちょっとで効き始めた抑制剤は発情ヒートを抑え込んでくれたようで、さっきまでの淫らな余韻を感じさせない眠り姫の寝顔は、健やかそのもの。


にも関わらず、いまだ堪え切れない劣情が込み上げてくるのは、彼女がオメガで自分がアルファだからなのか。


それとも、最初に彼女に惹かれた時と同じ、純粋な恋心からなのか。


シャワーの後も肌に残る甘い花の香りにやるせなくなって、部屋に残る甘ったるい独特の空気をどうにかしようと長年吸い続けている赤い箱に手を伸ばした。


重くてどこか甘い純粋な煙草の味と香り。


そういえば、この部屋に住むようになってから、女性を連れこんだことはなかったなと、まりあの寝顔を見ながらそんなことを思い出したら、彼女が僅かに瞼を震わせた。


幸徳井の買い上げ物件であるマンションに住むようになってから数年、いつでも好きなだけ部屋で煙草を吸ってきたし、枕もとには常に煙草とライターが置いてあった。


文句を言う相手は当然おらず、煙を気遣う必要のある相手にも出会ってこなかった。


ゆっくりと目を開けたまりあが、虎島を一瞥して声を上げる。


ここで俺が煙草を吸うと、彼女が副流煙を吸い込むことになるのか。


漠然と飛び込んできた純然たる事実に、慌てて灰皿を引き寄せた。


ああ、間違いなく自分は、乾まりあが好きだな、と思った。









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