第9話 昼想夜夢その1

それなりに遊んできたし、それなりにあしらって来た。


視覚で惹かれることも、嗅覚や聴覚で惹かれることもあった。


それでも、誘いかけるように甘えてしなだれかかって来た相手を本気で抱き潰してやろうと思ったことは無い。


ベッドの上でも理性的な方だと思っていた。


まりあの震える声での呼び出しは明らかに発情期ヒートのそれで、場所を尋ねても、コンビニに行って、それで、と半泣きの彼女の唇から零される情報はあやふやなものばかり。


あの日連絡先を渡してから、彼女が一人で住んでいる自宅マンションの位置だけは確かめてあったので、時間帯から帰宅してから徒歩で迎える範囲のコンビニだろうと当たりをつけて、一番近いコンビニに向かって車を走らせた。


幸い一軒目のコンビニの近くの公園の手前で植え込みに座り込んで膝を抱えているまりあを発見することが出来て、着衣の乱れもケガもない様子にホッと胸を撫でおろした直後に、目が合った彼女の眼差しに、脳髄を横殴りにされるような衝撃を食らった。


オメガの本格的な発情期ヒートを目の当たりしたのは初めてだった。


むせかえるような花の香りに包まれて、一瞬呼吸を忘れた。


足先から熱が込み上げて来て、否応なしに本能を揺さぶられる。


オメガの発情ヒートに煽られてアルファは発情ラットする。


久しぶりに感じる強い欲求をどうにか飲み下して、震える彼女の手を取る。


もう自力では歩けない状態のまりあは、虎島の顔を見るなり普段の警戒心が嘘のように身体を預けて来た。


浅い呼吸と身体の震えは、まりあだけではなくて、虎島の理性も引きちぎろうと仕掛けてくる。


発情ヒートを抑え込むすべは抑制剤以外になく、後は、熱を吐き出させるよりほかにない。


まりあを一刻も早く楽にしてやるためには手近なホテルに連れ込んでしまうのが一番だが、あいにく抑制剤が手元になかった。


フェロモンをまき散らすまりあとの地獄のような数十分のドライブデートの後、自宅マンションに彼女を連れ戻って、すぐに抑制剤を飲ませた。


口移しした直後に行儀よく唇を離そうとしたら、小さくて熱い舌が追いかけて来て、オメガの本性を垣間見たような気がした。


とろりと蕩けた眼差しでこちらを見つめるまりあの目には、虎島はほとんど映っていなかった。


恐らく、こんな風に突発的な発情期ヒートは初めてだったんだろう。


抑制剤の効用は体質によってまちまち。


最低でも効果が出来るまで1時間はかかる。


膝頭を擦り合わせて震える彼女が縋るように腕を伸ばして甘えて来て、花の匂いに溺れそうになって、直前で引き返した。


彼女のオメガ性質に乗じて抱いてしまえば、そこから二人の関係をスタートさせることになる。


まともな同意も了承も得られない状態で、彼女に触れるべきではない。


ぐらぐら煮えたぎる劣情を深い呼吸で一先ず逃がして、まりあの頬をするりと撫でた。


「まりあちゃん。薬が効いてくるまでまだしばらく掛かるんだ。一人で耐えられる?」


同じ部屋にいるのは絶対に無理なので、書斎にでも閉じこもるしかない。


この匂いがどこまで追いかけてくるのかさっぱり分からないが、すでに吸い込んだ分だけで、自分の欲はあっさり満たして吐き出してしまえそうだ。


「や・・・・・・ま・・・って・・・・・・・・・一人に・・・・・・しない・・・で・・・・・・・・・助け・・・て」


どんどん熱くなっていく身体と、強くなっていく花の香り。


震える指先が薄手のスウェット生地のパンツの紐に伸ばされた。


慌てて視線を逸らして、手探りで下着もろともそれを脱がせる。


「・・・・・・分かった・・・・・・・・・・・・助けてやる・・・・・・から、目ぇ閉じてな」


込み上げてくる罪悪感から逃れたくて、彼女の瞼をそっと下ろした。


頬を撫でて首筋を辿った手のひらで、Tシャツ越しに胸のふくらみに触れる。


ゆっくり捏ねると、すでに主張しきっていた尖りがこすれて心地よさそうにまりあが腰を揺らした。


背中に回した指先でホックを外して熟れた胸の先を優しく縒り合わせる。


「ぁ、や、っん・・・・・・っ・・・ぁっ」


「痛くない?」


「ん、ん・・・・・・っ」


こくこく頷いた彼女が、虎島の首筋に頬ずりして、気持ちい、と吐息で囁く。


色気の暴力に軽い眩暈に襲われた。


熟れた尖りを爪の先で弾いて、熱の籠った内ももに手のひらを滑らせれば溢れた蜜がべっとりと張り付いてきた。


ひくつく花びらの縁をそろりと撫でれば、よがり声を上げたまりあが腕をかりかりと引っ掻いてくる。


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