第41話 powder blue-2

本当にこの年下男子の中毒性は恐ろしい。


幻のような未来をいくつも脳裏に描かせて来るのだから。


「はいはい、そうね。なんか食べる?」


「ごめん、教授と打ち合わせしながらコンビニ弁当かきこんだ」


見ればすでに時刻は21時を過ぎていた。


智咲も夕飯を終わらせていたので、理汰に出せるものは冷凍のストックご飯で作るチャーハンくらいになる。


「そっか。もうこの時間だしね」


智咲の言葉に頷いた理汰がカバンを置いて、ソファに座ってサイドテーブルに冷えたカクテルの瓶を二本置いた。


「今日は、日付が変わるまで居たいなと思って」


そっと伸びてきた手のひらが、優しく膝頭を撫でる。


意味は、すぐに分かった。


「・・・・・・あの・・・理汰」


この間もそういう雰囲気になって、朝帰りをさせたくない智咲と朝帰りをしたい理汰の押し問答の末、そもそもアレがないという事に気づいて、理汰が先に折れた。


命拾いをしたと胸をなでおろした智咲は、予想以上に早く来た展開に大慌てで準備をして、それなりに覚悟もしていたのだけれど。


「今日は持ってる」


「う・・・あ、はい・・・・・・そう」


持って来てるのにしない、というのは拒絶になる。


智咲とてしたくないわけではない。


が、したら多分もうドツボにはまって抜け出せなくなるのはこちらのほうだ。


熟れて芽吹いた女の部分を理汰に見られるのだと想像しただけで腰の奥が疼いた。


何年ぶりだろうと指を折りかけて、いやもうほぼ処女だよなと不安になる。


「泊まらないから。ちゃんと帰るよ」


研究所ラボでの仕事は遅くなることも多いし、深夜作業になることもあるので、永子は理汰の帰宅時間を正確に把握していない。


朝起きて息子がいないとなるとさすがに察するだろうが、夜のうちに帰ればどこで何をしていたのかまでは分からない。


頬を撫でて視線を合わせた理汰が、柔らかい声で智咲の名前を呼ぶ。


「・・・・・・わ、かったけど・・・・・・私あの・・・何年も・・・・・・」


最後に付き合った彼と肌を重ねたのは10年ほど前の事。


さすがにこれだけご無沙汰だと、いわゆるセカンドバージンというやつではなかろうかと不安になってくる。


理汰の唇に身体はきちんと反応するけれど、それがどこまで続くかは分からない。


自分の心と身体が理汰にどう映るのか、心配事を挙げればきりがない。


「ゆっくりするから大丈夫。痛かったら言って?痛くないようにするけど」


「そんなことできるの・・・・・・?」


おぼろげに残る初めての行為はやっぱり痛かったし、日をおくと狭くなるからやっぱりその次も痛かったような気がする。


純粋な疑問から質問を投げれば、眉を下げた理汰が柔らかく笑った。


え、なんでそこで笑うの?というか笑えるの?


智咲の経験は極々僅かで胸を張れるほどのものではない。


理汰のこの笑みは智咲のことを甘やかすようでもからかうようでもあった。


もう分かっていたけれど、やっぱりこの先も主導権を握るのは理汰のほうだ。


頬にキスを落とした彼が、ベッド行っていい?と囁く。


智咲が高熱で寝込んだあの日、理汰は甲斐甲斐しく智咲の世話を焼いてくれて、ベッドルームにも入ったけれど、あれ以来、一度もこの部屋に足を踏み入れていなかった。


智咲がそれをさせなかったからだ。


コンビニ袋から取り出した未開封のパッケージをポンとベッドの端に乗せてから、理汰が隣に腰を下ろした。


今日のお土産は、恐らくコレを買うための口実だ。


「コレ、こっちに置いといていい?俺の部屋でするの嫌でしょ?」


「・・・死んでも嫌」


「酷いなぁ・・・いつかはしてよ」


言い切らないでよと困ったように零した理汰の甘ったるい笑顔を全力で睨みつける。


「隣、永子さんの部屋でしょ!?あんた私を羞恥心で殺す気!?」


想像しただけで脳みそが沸騰しそうになった。


万一そんな事になったら、翌朝永子の顔を見る勇気なんてない。


「母さんが出張の夜なら声出しても平気だけど」


「しない、しない」


「こっちのベッドのほうが狭いから・・・・・・嬉しいところもあるんだけど・・・いっぱい俺にくっついてね」


耳たぶをかぷりと甘噛みされて、悲鳴を飲み込んだら、理汰ごとベッドに倒れこんでいた。


衝撃をほとんど感じないのは、彼が回してくれている腕のせいだ。


「・・・智咲さん、初体験いつ?」


額にキスを落とした理汰が、慎重したシンプルなTシャツの裾から手のひらを忍ばせてくる。


みぞおちを擽って脇腹を撫でられて、吐息を吐きながら唇を開いた。


もうすでに心臓が痛いくらい早鐘を打っている。


「・・・・・・25」


当時周りはみんな経験者で、一人だけ未経験だとは言い出せなくて話を合わせる事に苦心したのをよく覚えている。


だから、経験者の仲間入りをした時には、心地よさとか感動とかより、安堵のほうが大きかった。


「俺17だから、智咲さんよりは知ってるよ・・・・・・だから大丈夫」


智咲がようやく大人の女性の仲間入りを果たした時には、すでに理汰は女性を知っていたのだ。


そりゃあキスも気持ちいいわけだ。


「・・・・・・私、色々凝り固まってると思う・・・価値観とか・・・意識とか・・・っん」


撫でるだけだった手のひらが、ブラの隙間から柔らかい膨らみをそっとなぞった。


息を飲んだ智咲の反応を伺うように指先に徐々に力が込められていく。


慎重に緩やかに、けれど確実に熱を押し上げていく仕草は優しくて巧みだ。


「うん。知ってる・・・・・・ちょっとずつ溶かして行くから、心配しないで」


首筋を這う舌の動きに翻弄されている間に、凝った胸の先を優しく弾かれて腰が浮く。


腕に力を込めてシーツに縫い留めた智咲の身体を見下ろして、理汰が膝頭を擽った。


息を飲む智咲と視線を合わせたまま、濡れた内ももの奥を探られて泣きそうになる。


「ぁ・・・・・・」


「大丈夫だから、力抜いて・・・・・・よく濡れてる」


「~~っ」


「なんで目、逸らすの・・・・・・綺麗だよ」


暗がりに映し出される自分の姿は、たぶん理汰が言うほど綺麗ではない。


それなのに、彼の言葉を信じてしまうのは、もう心を委ねてしまったからだ。


理汰に抱かれたいと思ってしまったからだ。


智咲の反応を伺いながら優しく唇を啄んだ理汰が、指先を動かしながら気持ちいい?と小さく尋ねる。


朦朧とする頭でこくこく頷いたら、嬉しそうに耳元で彼が笑った。


「今夜は俺に愛されることを覚えてね」



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