第6話 犯人?

「親父…⁉︎」

 殺人犯としてそこにいたのは、僕の実の父親だった。嘘だと思いたかったのに、彼は僕の記憶の中にある父親と全く同じ人物だった。

「どういうことだよ!親父、なんでここに⁉︎」

 僕は冷静さを欠いていた。

「類!」

 心愛の僕を呼ぶ声にハッとする。気がつけば、僕の拳は強く握られたまま空に浮いていた。

「ありがとう、心愛。」

「うん…。」

 一度深呼吸を深くして、僕は親父の目の前の椅子に腰掛けた。長い記憶の中でも、アクリル板越しに親父を見るのは初めてだった。灰色のTシャツを着た親父はいつもみたいにカッコよくは無くって。どこか知らない人のように感じる。

「なんでここに親父が…?」

 深呼吸なんかじゃこの動揺が収まるわけもなくって。ただ情けのない声が出た。

「なんでって…。俺が交通事故を起こしたからだよ。」

「でも、そんなわけないじゃないか!」

 僕は再び大きな声を出してしまった。

「だって、親父ならわかるはずだ!親父が殺したのは僕じゃないって!」

 犯人が親父なら事故の直前にMr.Xの顔を見ていてもおかしくない。だったら、死んだのは僕じゃないってわかるはずだ。

「いや。俺が轢き殺したのは確かに俺の息子…類だ。」

 真面目な顔で、親父はそう言い放つ。空気がピキっと音を立てた気がした。

「でも、僕はここにいるじゃないか!」

 もう冷静さなんて失っていた。なんで親父は運転なんてしたんだ?なんで親父は僕を殺したのだと言うんだ?

「類。」

 心愛は僕の肩をポンと叩き、僕の目を見て頷いた。まるで、私に任せろと言っているようだった。

「ねえ、おじさん。貴方が類を殺したなんておかしいよ。だって、私はずっと見てきたから。」

 静かに、落ち着いた声で淡々と心愛は話す。

「本当は違うんでしょ?だって、類のこと昔から大切にしてたじゃない。」

 僕は、お母さんと似ていたらしい。形見みたいな僕は、親父に愛されて幸せな人生を送ってきた。それを、幼馴染の心愛は知っている。

「それなのにただ車で轢いてしまうだけじゃなく、顔が判別できないほどになるなんておかしいじゃない。そうでしょ、おじさん?」

 そういうと、心愛の頬を涙がつたった。そこで僕は気付かされた。心愛も辛かったんだ。さっきまで僕に冷たかったのも、僕が父親が人を殺したという事実を目の当たりにすることを知っていたから。優しい心愛は、その事実が辛かったのだ。

「なあ、心愛。ちょっとコイツと話がしたいんだ。席を外してくれないか?」

 泣いている心愛の気持ちを無視して、氷のように冷たい言葉を親父は言い放った。

「…類。」

 目に涙の滴をいっぱいに溜めて、心愛は僕の手をきゅっと握る。僕は好きな女の子が泣いている時に一人にする人間だったか?僕だったら、きっとそんなことをしない。

「親父、それは出来ないよ。」

 僕は確かな意志を持ってそう言った。

「…心愛、出ていってくれ!」

 なのに、親父は心愛に怒鳴る。

「…類、大丈夫だよ。」

 えへへ、と言いながら心愛はぴょんと立ち上がるとドアの前に立つ。

「早く終わらせてね?」

 心愛は無理に口角を上げて笑っていた。僕を残したままドアが閉まった。

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