第5話 刑務所
次の日、僕が出かけた日は空一面の青空だった。冬にしては暖かく、ただただ来ていた場所とのコントラストに困惑させられた。もっとも、僕は実際心愛と出かけると言うことにワクワクしていたのだが。
まず人生で刑務所になんて来ることはない。普通の人も来ないし、警察だって来ない。ただ、犯罪者だけが来る場所だ。白くて四角い、不気味なほど無機質な建物の前に立ちそう思う。
「来たのはいいけど…僕たち面会できるのかな?」
「大丈夫だよ、類がいれば会えるから。」
心愛は冷たくそう言い放つと、入り口の顔認証システムを起動してスキャンする。
「ほら、類も。」
「うん…。」
刑務所に行こうと言ってから、心愛が僕に冷たい。なんだか怒っているようだ。どのくらい冷たいかというと、さっきからずっと手を繋ごうと試しているのに毎回避けられるくらい冷たい。泣くよ、僕。
「心愛なんか怒ってる?」
「は?」
「す、すみません…。」
多分僕が心愛と結婚したら尻に敷かれる。心愛に睨まれると昔から反射的に謝ってしまうのだ。
「手続きしてくるからちょっと待ってて。」
「はい…。」
心愛は大きな液晶パネルに音声案内を聞いて必要な情報を入力しているようだった。全部手続きは心愛に任せっきりで申し訳ないというか、不甲斐ない。
AIが発達してから、ほとんどの仕事はコンピューターに任されるようになってきた。刑務所の管理なんて、殺人犯だっているんだから危険が伴う。ましてや死刑を執行する人間のストレスなんて相当なものだろう。真っ先にコンピューターが人間から仕事を奪ったのはこの刑務所だった。だからここには、犯罪者しかいないのだ。
「類、行こう。」
「はい…。」
スタスタと歩いていく心愛の後についていく。壁も床も真っ白な通路を歩いていく。ここには沢山の犯罪者がいるはずなのに、ただ僕たちの足音だけが響いているのが不気味だった。
「ねえ、類。知ってる?牢屋に入っている人と会える人って決まってるの。誰でも会えるわけじゃないって。」
「え、そうなのか?じゃあ僕たち会えないんじゃ…?」
ここまで来て会えないなんて嫌だ。でも、心愛とここまで来れたということは何か特別な理由があるのか?
「言ったでしょ?類がいれば会えるの。」
心愛はその通路の突き当たりにあったドアの前に立ち、僕の方を振り返る。
「犯罪者と面会できるのは例えば警察とか、弁護士とか。でも、そんな職業はもうAIが成り代わってるから会いに来ないでしょ?」
心愛は僕の手を取ると、ドアの横にある指紋認証の機械に触れさせる。ピーッと音が鳴りドアが開いた。
「今こんなところまで来ることができて、犯罪者に会いたいと思うのは家族だけだよ。」
心愛はふいと僕から顔を背ける。その言葉が理解出来ずにドアの向こうを見る。
「…よお。」
そういうと、犯人は笑って僕に手をあげて挨拶する。
Mr.Xを殺した犯人として捕まっていたのは僕の親父だった。
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