第4話 死体
「確かに、これは類の骨じゃない…。でも…。」
心愛はその事実を受け止めるだけの確信が持てないようで、難しい顔をしている。
「…その骨の持ち主をMr.Xとしようか。なあ心愛。Mr.Xはどうして死んだんだ?」
僕には情報が少なすぎた。心愛から情報を得たいところだ。
「ええと、信じられないと思うんだけど…交通事故だって聞いたよ。」
「交通事故⁉︎」
僕は思わず大きな声を出してしまった。交通事故なんてあり得ない。
「私もびっくりしたんだけどさ…ここ十年そんなエラー起こしたことなかったもんね。でも、今回は意図的なものだった。」
「まさか…!」
「そう、人間が車を運転していたの。」
十年前から日本では、自動車やバイクなど全ての乗り物の運転をAIに一任することが決定されていた。エラーやミスを起こしにくいAIの方が安全で安心であるということがわかったからだ。つまり、自動車を運転することは犯罪だ。
「AIがエラーを起こして、自動運転機能が働かない状態だったみたいで…。メンテナンス中だったのに犯人は運転したんだ。昔、法律が変わる前には運転してたらしくって、それで。」
「そんなの…酷いじゃないか。」
AIに全て頼めばよかったのに。なんて愚かなんだろうか。
「死体も、顔が識別できないほどだったらしくってさ。Mr.Xも報われないよ…。」
心愛は辛そうにそう言うと、冷めたココアを口にした。
…いや、ちょっと待て。顔が識別できないほどだった?
「…なあ、心愛。もしかして犯人は事故の前にミスターXの顔を見ているんじゃないか?」
「え?」
何を言っているのかわからない、といわんばかりの顔をして心愛は首を傾げる。
つまりこうだ。僕は生きていて、それなのに死んだことになっている。それはMr.Xの死体が僕のものだとなにかの手違いで勘違いされてしまったからだ。それなら、犯人に証明して貰えばいいのだ。そうすればMr.Xの骨も正しい遺族の元へ帰ることができるし、僕が死んだなんてデマも消えてなくなる。
「なあ、心愛。犯人は捕まっているのか?」
「確かに牢屋に入ってはいるけど…、どうして?」
少し複雑そうな顔をして心愛は僕に尋ねる。
「会いにいくんだよ、犯人に。そして、事故に遭ったのが僕じゃないって証明してもらうんだ!」
そして巻き込まれてしまった事件を解決したら、もう一度心愛に告白するんだ。明るい未来が見えてきて、人が死んでいるというのに僕は随分とワクワクしてしまっていた。
「類、覚悟して行ってね?相手は人殺しなんだから。忘れちゃダメだよ。」
だから、心愛のこの時の気持ちなんて考えていなかったんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます