部屋へ案内

家に到着する。

鍵を開けて建物の中に入る。


「取り敢えず、二階な」


部屋の奥へと案内しようとした。


「(あぁ…鹿角さまと共同生活)」


憧れの人物との共に過ごす毎日がこれから始まるのだと思っている雪消癒遊。

階段を昇ろうとして、彼女は一歩、階段を踏んだと共に少し、動くのが億劫になっていた。


「あ…す、すいません」


体に巣食う病魔が、彼女の動きを制限していた。

沢山動き過ぎると、彼女が熱を持って、病魔が活発化するらしい。

息を整える為に、彼女は階段に座って深く息をする。


玉の様な汗が流れだす。


「す…ふ、ぅ…」


深呼吸を繰り返す彼女を見兼ねた伏鹿角はゆっくりと彼女の肩に手を乗せる。


「え」


そして、伏鹿角は彼女、雪消癒遊を抱き上げた。

彼女は、急に、伏鹿角にそんな事をされて、呼吸すら忘れてしまう程に慌てている。


「あ、あの、鹿角、さまッ」


「暴れるなよ…お前、体に病魔が住んでるんだろ?…だったら、多少、無理な動きは出来ないもんな」


と、そう伏鹿角は自分を納得させるような口ぶりで、彼女を二階へと運んでいく。


「頭とかぶつけそうになるな…もう少しだけ密着してくれよ」


彼女を抱き上げた伏鹿角の言葉に、雪消癒遊は、彼の首に手を回す。


「(こ、これは、もっと、近づいても、良いので、しょうか…た、体臭、あ、汗も、あぁッ、こんな事なら、もっと、体を清めていれば…ッ)」


恥ずかしそうに顔を赤らめて、自分が抱き上げられていると言う事実に、雪消癒遊は心底、惜しく思っていた。

自分の匂いが臭くはないか、この体が重たくはないか、心臓の高鳴りを聞かれては無いか…その様な思考ばかりが、自分の頭の中に巡りつつある。


「ほら」


二階まで彼女を抱き続け、そして、伏鹿角は、彼女を自作のベッドの上に置く。

ベッドの上に横になる雪消癒遊は、胸元に手を添えて、髪が乱れてないか、細い指先で髪を梳いていた。


「ベッドを買う時間が無かったからそれくらいで勘弁してくれ、…あぁ、それとも、婆さんの所に戻りたかったら、何時でもそう言ってくれよ」


「いえ…私は、鹿角さまの…ここが、この場所が、良いです」


顔を赤らめて、伏鹿角が与えてくれた居場所を、自らの大切な空間として認識する。

それを与えた当の本人は、彼女の考えが心底理解出来ない様子なのか、そうか、と頷く事しかない。


「さて…じゃあ部屋を案内したし…早速で悪いが、俺は家を空ける」


家を空ける。

その言葉に、彼女の脳裏に浮かんだ言葉は一つしかない。


「迷宮に、潜って来る」


伏鹿角は、そういうのだった。

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