新しい名前
伏鹿角は仕方なく、彼女の為に部屋を用意する事にする。
と言っても、彼の家は人が住めればそれで良いと言ったものだ。
彼の家は二階建てだ。しかし、住宅ではない。
元々は、飲食店を経営していて、一階は食事スペースであった。
だが、現在は閉店している為に、家の前には閉店の張り紙が張られている。
鍵を使い部屋の中に入れば、一階スペースには、テーブルが四つ、その上に椅子が四つずつ置かれている。
カウンター席の奥には、水道は出るが、ガスは使えない状態だ。
元々、このスペースは二階へ行く為に使う為に、掃除すらしていない。
だから、机の上には埃が被り、天井の隅には蜘蛛の巣が張られている。
階段を使って二階へと上がっていく。
二階は物置部屋である。
部屋の中へと入っていくと、多くの道具や置物が置かれている。
飲食店用のイベント用の置物や、機材が積まれていた。
唯一、人が住めそうなスペース。段ボールを正方形に積んでその上に布を敷いた簡易ベッドである。
「(こんな場所に置くくらいなら、ババアの病室で寝かせれば良いのに)」
伏鹿角は溜息を吐いた。
仕方なく掃除を行う事にする。
実に数年ぶりである。
出来るだけ人が住めるスペースを確保する為に伏鹿角は、物を置き直していた。
そうして後日。
老婆の元へと伏鹿角は向かう事にした。
一日だけは安静に、彼女の体調を様子見て、その後に、伏鹿角が引き取りに来たのだ。
「ようやく来たのかい、坊主」
「あー…それで、あれは?」
あれ、と言う言葉に反応して、老婆が伏鹿角の頭を叩く。
「ちゃんと名前で呼んでやりな」
「…白院は?」
老婆は目を細めて苗字で呼ぶのかと思った。
その視線に感づいた伏鹿角は老婆に言う。
「他にどう呼べって言うんだよ」
「この世界の嬢ちゃんはね、白院では死んだ存在なんだよ、だからそんな呼び方はやめる事だ」
そう話していた時、病院の玄関が開き、其処から白院癒遊が出て来た。
「あの…お待たせ、しました、鹿角、さま。それと、お世話になりました、御婆様」
「おばあさまなんて止めとくれ、これでもお姉さんって言われたら喜ぶタイプなんだから」
「見た目を考えろよ」
伏鹿角はそう突っ込んだ。
「あの、ありがとうございます。この身分証明書」
「あぁ、知り合いからの伝手でね、偽造はお手の物だよ」
老婆はそう言って、彼女が見せて来た身分証明書を確認する。
「今日からあんたの名前は
「はい…これから、宜しくお願いします…こほ」
小さく咳払いをしながら、雪消癒遊はそう微笑むのだった。
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