法外な値段

結局のところ、伏鹿角は気絶した白院癒遊を連れて迷宮から脱出した。

道中、女を背負う男の姿に奇異的な視線を向けられながら、伏鹿角は病院まで向かっていく。

病院と言う名ばかりの建物に到着すると、扉を開けて勝手に入っていく。


「なに?」


受付の辺りで新聞紙を読んでいた老婆が目を向ける。

ここでは、治療をしてくれる人間はこの老婆しか居なかった。

特に珍しい属性持ちである老婆は、数少ない治療師として病院を経営していた。

しかし、治療費はバカにはならない。

だが、誰でも平等に、見てくれると言うのであれば、この老婆に治療を頼む他無い。


「婆さん、診察を」


「診察料500万ね」


面倒臭そうに眼鏡を掛けて新聞紙を読み直す老婆。

法外な値段。しかも、それは診察するだけ、治療するとは言ってない。


「クソババアめがッ」


そう言って伏鹿角が出ていこうとすると、老婆はふと、治療に必要な、白院癒遊の方を見て目を細める。


「ちょいと待ちな、その子…」


「なんだよ、迷宮で拾ったんだよ」


拾った、と言うのは、どうかと思うが、そうとしか言いようが無かった。


「白院の…いや、まさか…、おい、伏の坊主」


「なんだよ、あんたの所には関わらないって決めたんだけど」


「いいから来な、診てやる」


老婆は初めて重い腰を下ろして歩き出す。

珍しい事があるものだと思いながら、老婆の後ろを歩いた。

病室には驚く程に誰も居ない。

法外な値段を払ってまでこんな病院に居たくは無いのだろう。


「そこのベッドに乗せな」


そう言われて、伏鹿角は言われた通りに白院癒遊をベッドの上に乗せた。

彼女の服装を確かめる老婆は、まだ、伏鹿角が居ると言うのに、彼女の衣服を掴むと引っぺがした。

白い肌、大きな乳房が見えた。


「ババア、服剥ぐんなら言えよッ」


「何見てんだよスケベ小僧が」


伏鹿角は視線を逸らす。

病室の外へと向かおうとすると。


「鹿角…さま」


彼女の声が漏れた。

老婆は、白院癒遊の肌に触れて、体調を確認している。


「…」


「うわ言だね…おい助平」


助平、と言われて、伏鹿角は声を上げる。


「伏鹿角だ、ババア」


「ババアじゃないよ、お姉さんと言いな」


「年を考えろよ」


「考えた結果だろうが、…そんな事はどうでもいい」


立ち上がると共に、老婆は病室から出ていった。

そして再び戻って来ると、一つのファイルを手に取る。

老婆は白院癒遊の口に薬指を突っ込むと、それを口に含んだ。


「…血液、体質、髪の質、DNAも同じ…驚いたね」


「何がだよ」


後ろを振り向いている伏鹿角は聞く。


「昔、白院の嬢ちゃんの診察をしてた事があった。その時に、ワタシャ、彼女の事を色々と調べたんだよ。術像にやられた体を治す為にね」


「あぁ…そうなのか?それで」


「結局その子は死んじまったが、彼女の情報をまとめたファイルは残してた…この子の顔を見て驚いたね、そっくりなんだよ」


それがどういう意味であるのか、分からない伏鹿角でも無い。


「白院癒遊。本物だ」


老婆は、そう確信して言うのだった。

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