成長
そうして少女は成長した。
しかし、其処で少年と出会う機会は無かった。
まるで長い夢を見ていたかの様に、少年の姿は何処にも無い。
それが彼女にとって心残りではあった。
しかし、きっと、その少年は何処かで達者に暮らしているだろう。
そう思い、彼女は今を生きる選択を取る。
歩き、向かい、白院癒遊は、細い体を動かして、訓練に勤しんだ。
そうして成長した白院癒遊は、名家として恥ずかしくない程に成長した時。
ある事件が起きた。
迷宮内で発生した術像達によるスタンピード。
それは迷宮内部から外へと出ていきそうなほどに周囲の術像活動能力は活発と化していた。
その事態を止めるべく多くの術師たちが派遣されるようになった。
総勢約5000体に対して対する術師たちは約300名。
術像の中には禁忌級に該当する化け物も多くいた。
それでも白院癒遊たちは立ち向かわなければならない。
この大勢の術像達が外へと出てしまえばその近隣の都市はおろか最悪日本が滅んでしまう可能性もあった。
だからこの迷宮内部で決着をつけなければならなかった。
白院癒遊たちは戦った。
一心不乱に敵を滅ぼし勝利を掴み取るために。
そして白院癒遊もまた誰かを守るために戦い続けた。
三日三晩続いたとされるスタンピード。
全員が疲弊しながらもなんとか術像たちを討伐していた。
そんな最中白院癒遊の肉体に異変が訪れた。
それは幼少期の頃と同じような全身を蝕まれるような痛みだ。
そこで白院癒遊は知ってしまった。
多くの術像の中に白院癒遊の肉体に呪いをかけた術像が存在する事に。
白院癒遊の肉体に再び襲いかかる病魔の巣窟。
『ぐ、うぅううッ』
動けなくなった白院癒遊はその場に蹲り、ただ痛みに悶えるだけだった。
もちろんそんな白院癒遊に対してただ黙って見ているような術像など存在しない。
白院癒遊が動けなくなったことをいいことに化け物たちによる猛攻が始まった。
絶体絶命危機的状況。
このまま白院癒遊は自分の命がここで尽きるとそう思っていた。
だがそうはならなかった。
生きることを諦めて瞳を瞑ったかと思えばやってくる筈の死が訪れない。
恐る恐る目を開けてみると白院癒遊の前には一人の男が立っていた。
その姿を確認したとき、一瞬で白院癒遊はその人間があの時の少年であることを知る。
感動の再会。
しかし白院癒遊は喜べない。
なぜならばその少年の体は術像の攻撃によって体を潰されていたのだ。
立っているのもやっとの状態。
疲れ切っていた白院癒遊は奮起して立ち上がるとともに少年の身体に突き刺さる術像の群れを払う。
そして地面へと倒れそうになる少年を抱きとめる白院癒遊。
『なんて。事に…ごほッ』
病魔に侵されながらも彼女は少年の心配をする。
少年は、もうじきに死んで逝く、それでも、何処か満足気な表情をしていた。
『あぁ…女の子一人、助けて死ぬなんて…そりゃあ、最高な死だなぁ…』
『まって、し、死なないで、わたしは、ずっと、貴方を、探していた、のに、こんな…』
こんな終わり方など、認めない。
スタンピードが終わった時、彼女は、自らの手の中で死んだ少年を思い出す。
もしも、望むのならば…もう一度、少年の元に。
そう思い、白院癒遊は、迷宮へと潜り続けた。
ある噂では、平行異世界へと向かう鏡があると聞いた為だ。
蘇生の術具も遡りの術具も、一つの手ではあったが先に見つけたのが、それだった。
平行世界へ続く鏡、彼女はそれを見つけた。
そして、白院癒遊は、自分が過ごした世界と別れを告げ…この世界へと渡って来た。
少年…伏鹿角へと会う為に。
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