少女の思い出

白院癒遊。

この世界では死んだ存在。

しかし、彼女が居た世界では、病弱でありながらも生き永らえた世界に居た。


それは、幼少期の頃。

白院癒遊が危篤状態になっていた時の事だ。

時折、彼女の元へと遊びにやってくる少年が居た。


毎日、屋敷の中で暇そうにしている彼女が気がかりだったのだろう。

二階の個室で窓から外を眺めている彼女の為に、少年は木を登り、少女の元へと会いに来ていた。


部屋から出れない彼女の為に、少年は外の話をした。

それは、少女にとっては新鮮な話で、まるで冒険活劇を聞かされた様に、胸が熱く、喜々とした感情を浮かばせていた。


何時か、外に出る事があれば…自分も、少年と同じ様な話をしたいと。


『お前、病弱なんだってな?薬とか持ってないのか?』


少年の問いかけに、少女は難しそうな表情をして答える。


『めいきゅうで、必死に、さがしている、と聞いています…けほっ』


彼女の肉体には、迷宮に住む術像による呪いを掛けられていた。

それは、当主であった彼女の父親が、呪いとして、父親にではなく、子供に対して作用する呪いを与えた為だった。


呪いを解くには、呪いを与えた術像を倒すか、呪いを解く術具が必要だったのだが、現在に至るまで、そのどちらも達成されていない。


このままでは、少女は短い命となるだろう、と。


『俺の父さんもさ、迷宮攻略者なんだ、今度、たのんでみるよ』


『…あなたは、どうして、そこまで、わたしを、気にかけて…』


と、幼き癒遊は聞いた。

少年は、彼女の質問に言った。


『死んでほしくないって思うからなぁ、元気になったら遊ぼうぜ』


そう言われて、幼き癒遊は嬉しかった。

少年が、未来を閉ざされた少女の心を開いた様に思えた。


ある日、幼き癒遊は突然の発熱を発した。

それは、呪いによる影響であり、見識のある者から見れば、その日が峠とも称された。

迷宮攻略者が、どうにかして彼女を活かそうと奮起していた。


そして、癒遊自身も、生きたい、と言う願いを抱いていた。

少年と、遊びたい、もっと、喋りたい、自由に、楽しく、その様な希望が、少女の生きる時間を延ばしたのだろう。


屋敷に、一人の男がやって来た。

手には一本の瓶。それを従士に渡して告げる。


『倅の頼みだ、これで、娘の命は救われる』


藁にもすがる思いであった。

その薬を、少女に飲ませた。

その日の峠をどうにか超え、体から熱が引いていき、体に蝕まれた病魔が失せていく。

薬を飲んだ事で、彼女の肉体に残る病魔が消えたのだ。


奇跡としか言いようが無い、復活劇。

目を覚まし、少女は窓から外を眺める。

言わずとも、彼女は理解していた。

少年が、自分の命を救ってくれたのだと。

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