第二章「ハッピーで埋め尽くして その3」
「シンさん、今日はこの後お暇ですか?」
「ん、今日は…特に予定はないな」
アルが俺の予定を気にしている…?この後、いったい何を言われるのだろうか。
はっ、まさかデート…!?
「暇でしたら、一緒に森へ食材を採りに行きませんか?」
「はい…」
「ちょ、なんで元気なくすんですか!?」
まあ…捉えようによっては森にデートに行くって考えられるし…。いいか!元より、アルの頼みを断るつもりはないのだが。
「あ、でも今この近くの森一帯魔物が増えてるみたいなんですよね…」
「マジか。何か対処したりとか、ないのか?」
「そのことに関してじゃが、もう対処はしておるぞ」
「え、村長!?」
い、いつの間に…。てか、急に話に入り込むんじゃないよ、このジジイ…。心臓に悪い…。
「村長さん、それはどういうことですか?」
「ああ、村周辺の魔物事情を鑑みて何ができるか探しておったのじゃが、勇者様一行の賢者様から、こんな箱をいただいたのじゃ」
そう言って、村長は人が一人入りそうな大きさの箱を見せてきた。
「お、大きいっすね…。これ、何なんですか?」
「まあまあ、そうあせるな。これはのう…、魔除けの結界の箱じゃ!」
「魔除け…」
村長が言うには、この箱からは魔族に対して効果的な香(賢者様によるブレンド)が入っており、周囲十キロ以上にも渡って魔族が寄り付かないようになっているそうだ。
「でも、勇者様たちお忙しいのに、協力していただけたんですね!」
「うむ、それに関しては本当に感謝しかないわい…」
「なるほど、これがあればこの村が襲われる心配はない、と…」
しかし、こういう話を聞いていると、この世界にどれほど勇者たちが敬われ、頼りにされているのかがよく分かるな。
俺も自分の祝福さえわかれば、アルたちからも頼られるようになるんだろうが…。やれやれ、なんで俺は自分の能力すらも把握できていないんだ…。
村長から、森へ入るのは安全だ、と言われたその後、俺らはさっそく森へ来ていた。
一応、何かあった時のために使えそうな斧を持ってきたのだが、如何せん運動不足なもんで重たそうにしている俺を見て、アルは笑っていた。本当に嫌になるな、俺って…。
「シンさん、見てください!このキノコ!」
「ん…?うわ、なんだそれ。カラフル過ぎるだろ…」
見ると、そのキノコは基本色をランダムに塗りたくったような見た目をしており、明らかに毒を持っていそうな見た目をしていた。どう見ても食用じゃないが。
「フフン、シンさん、これ毒を持ってそうだなって思いました?実は、これ食べられるんです!」
「マジかよ…。これを最初に食べた人間、尊敬するわ…」
ただ、これを使った料理を想像してみるも、どう考えても美味しそうな見た目にはならない気がする…。
キノコの見た目一つとっても、異世界の面白さを感じることができるとは。
しばらく歩いていると、陽の光が入り込んでいる箇所が奥に見えてきた。
森は普通、あそこまで直接日光は入ってこない。ということは…。
「あそこ、開けてる場所でもあるのか?」
そう聞くと、アルは少し顔を俯けて、こういった。
「あそこは…お墓なんです。この村の。行ってみますか…?」
「墓…」
どうしたものか、とも思ったが、異世界の死生観や慣習について興味があったので行ってみることにした。何か悪いことをしているわけでもないし。
段々とそこへ近づくにつれ、そこがどれだけ開いている場所なのかがわかってきた。正直、かなりの広さだった。
入口へ着くと、目の前の視界はほとんど平らな墓地で埋め尽くされた。
しかし、墓地だからと言って暗い雰囲気なわけではない。
そこは、白い花であふれていた。
まるで…天国のようだった。
死ぬ場所を選べるなら、ここで死にたい。そう思えるような場所だった。
「この花たちの下に亡くなった人たちを埋めるんです。そして、彼らは土に還って、生命は巡るんです。それが、この世界の仕組み」
「生命の循環、か…」
墓地をしばらく眺めていると、なるほど、なぜ墓地なのにここまできれいだと思わされるのかがわかった。
『墓石』がないのだ。この地には。
そこには、白と緑の見事なコントラストがあるだけだ。
俺は、しばらくその光景に目を奪われていた。
その後、俺たちは食材として使えそうな木の実や根菜を採って行った。
この森のことは知り尽くしているのか、周辺の植生について色々質問するとアルはすべて答えてくれた。
ちなみに、動物も生息しているようだが人を襲うようなものはこのあたりにはいないらしい。狩猟の時期になったら鳥を狩ったりもしているようだ。
家に帰る途中、今日は久しぶりにこんなに歩いて疲れたなあ、と思っていると、アルが控えめに話しかけてきた。
「あの、明日は…予定は空いてますか?」
「ん、まあ、ないけど…」
今度は何だろうか。また仕事を手伝わされるのか…?つい邪推してしまう最悪な自分がいた。
「よろしければ…、その、一緒に王都周辺を回りませんか?」
「なっ…!」
デ、デートじゃねえか、コレ!
当然、OKした。
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