第8話

 薫の母は、すぐにやって来た。

「美和子ちゃ~~ん、久しぶりやわ~~」

 着物を着た美人が白鳥に抱き付いた。

「御久し振りです、伯母さん」

 白鳥は慣れているようだ。

「やっぱり美和子ちゃんは、いつ見ても、お人形さんの様に可愛らしいわぁ。……あっ、ちょっと髪切ったんと違う?」

「はい、一年くらい前に。今はけっこう伸びましたが」

 そう、白鳥は約一年前に髪を切った。

 腰まであった髪を肩くらいまで、バッサリと。

 ケジメのつもりだと。

 黒魔導師から白魔導師になったケジメだと。

 ていうか、こいつ、髪伸びるの超早え。

 もうちょっとで、腰まで届きそうだぞ。どうなってんだ……。

「オカン、そろそろ離れたってな。抱きしめ過ぎやて」

「ごめんなぁ、美和子ちゃん。あっ、この子らが昨日言ってた……」

 やっと、おれ達に気付いたようだ。

「美和子ちゃんの彼氏にしては、少し地味過ぎやない?」

 地味過ぎって。

「いえ、彼氏ではありませんよ。こんな地味で、これといって特技もなさそうな何処の馬の骨かも分からない男を彼氏にする訳がないじゃないですか。もう、可笑しな冗談は止めて下さいよ、伯母さん」

 早口で一気に喋る白鳥。

 おれの悪口を、よくもまあスラスラと言ってくれるじゃあないか。

 何処の馬の骨かは分かってくれよ。

 高村秀だよ。

「そうやね。美和子ちゃんには、もっとキラキラした人の方がお似合いやね。光源氏みたいな」

「いえ、彼は浮気者ですので、遠慮しておきます」

 白鳥と薫オカンが雑談を始めてしまった。

 仕方がないので、薫に聞いてみた。

「なあ、おれはいつになったら、ちゃんと紹介してもらえるんだ?」

「う~ん、オカンの話は長いからな。まぁ、気長に待ってな」

「気長にって……」

「それよか、美和子も酷いこと言いはるなぁ。秀にも沢山ええとこあるのになぁ?」

 会って数時間しか経ってないお前に言われても……。

「まあ、あいつの毒舌には慣れてるし」

 伊達に、一年間付き合ってきた訳ではない。

「そんなら大丈夫やな」

 薫が満足そうに頷いた。


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