第9話

その後、おれ達の紹介は薫がちゃんとしてくれた。

 泊まる部屋に荷物を運び、特にすることもないので、弟たちとブラブラ散歩することにした。

 元旅館は、客が来ないにも関わらず、小奇麗にされていた。

「そういえば、何年か前に、ここと似たような温泉旅館に泊まったことがあったよな。覚えてるか?」

 家族旅行の話だ。

「うん、覚えてる。確か、兄ちゃんが石けんで滑って転んで、たんこぶ作ったとこだよな」

「ああ、兄貴がたんこぶ作ったときか」

「お兄ちゃんが、たんこぶ作った~」

「たんこぶだなんて、間抜けね、高村君」

「しっ、白鳥、お前いつからそこに居たんだよ。ていうか、お前らはたんこぶ以外に記憶にねえのか?」

「あっ、あと、シカに追いかけられてた!」

「それは、お前らも一緒だっただろうが」

 もっと、いい思い出あっただろ。

「鹿ってことは、奈良公園かしら? それだったら、今回の旅の行程に含まれているわよ」

「いや、奈良じゃなくて広島だよ。厳島神社のとこ」

「ああ、そっち。だったら、今年の修学旅行で行くわね」

「そういえば、広島って言ってたな」

 この春休みが終わり、二年に進級して、六月には修学旅行か……。

「また、鹿に追い掛けられるといいわね」

「お前が追い掛けられろ。……もう、旅の行程とか決まってんだな」

「ええ、勿論。私、旅の行程を考えるのは得意なのよ」

 ツアープランナーかよ。

「……あれ、薫は?」

 さっきから姿が見えない。

「自分の部屋に居るわよ」

 

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