さよなら、蒼(あお)
コンコン…コンコン…
理一:「うーん」
僕は、いつの間にか眠っていたらしい。
コンコン…コンコン…
窓を開ける。ガラガラ
蒼:「寝てたか?」
理一:「何?朝から」
蒼:「もう、昼だから」
理一:「歯磨きしてくる」
蒼:「待ってる」
僕は、部屋に蒼を置いて一階に降りる。一階は、静まり返っていた。洗面所で、歯を磨いて顔を洗ってキッチンに行く。
冷蔵庫のホワイトボードに、【三人で出掛けてきます。好きなの食べてね!夕方には、帰ります。母】と書かれている。多分、蒼とお別れがゆっくり出来るようにしてくれたんだと思う。僕は、ホワイトボードにさらさらと文字を書いて水を取った。
ダイニングテーブルを通りすぎようとした時だった。【理一へ】と書かれた二枚並んだ封筒が置かれていた。僕は、それを握りしめて二階に上がった。
理一:「水でいい?」
蒼:「ありがとう」
僕は、封筒を机に置いた。
水を飲みながら、蒼を見つめる。自転車の練習を一緒にした事、なわとびの練習を一緒にした事、逆上がりの練習を一緒にした事、運動会の練習を一緒にした事、手を握りしめたくなりながら我慢した帰り道、寝顔にキスをしたくなった日、抱き締めたくなった日、告白をしたくなった時もあった。
蒼:「何かついてる?」
理一:「えっ!ううん」
蒼:「なら、いいんだけど…」
理一:「何か用だった?」
蒼:「明日、花岡さんとデートするから!緊張して!だから、りっくんと話そうかなーって」
そう言って、蒼は眉毛を撫でている。緊張してるんだ。
理一:「どんな服、着ていくの?」
蒼:「決めてないよ」
理一:「せっかくなら、僕が選んであげようか?」
蒼:「何で、反対してたんじゃないのか?」
理一:「そうだ!蒼と僕は、ほら似たようなサイズだろ?身長は、僕のが低いけどさ…。上なら入るだろ?僕の服をあげるよ」
蒼:「りっくん、死ぬみたいだな?」
理一:「はあー?馬鹿じゃないの。死ぬわけないよ!」
僕は、蒼に泣いてるのがバレないようにクローゼットを見る。男になろうって決めて買った!ネイビーのシャツを取った。一度も袖を通さなかった。
理一:「蒼、あげるよ」
蒼:「かっこいいなー!いいのか?」
理一:「僕には、似合わなかったから」
蒼:「そうか?りっくんに似合いそうだけど」
理一:「本当、似合わないから」
返されそうになるのを止める。僕は、そのシャツが大嫌いだった。男にならなきゃと頑張って、選んだシャツだったから…。
蒼:「じゃあ、明日これ着てくわ」
理一:「うん、いいと思うよ」
蒼、花岡さんと幸せになってね。
僕、応援してるから…。
離れても、ずっと…。
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