僕の迷い

母:「じゃあ、もう寝なさい!」


まだ、まだ、一緒に居たかった。


理一:「母さん」


母:「死ぬわけじゃないんだから!もう、泣くの嫌よ、母さん」


そう言って、母さんは僕の肩を叩いた。


母:「さっさと寝て、蒼君にお別れして!理一は、もうさっさと別世界あっちに帰りなさい」


母さんが、寂しいのがわかった。さっさと帰りなさいってシッシッと手をやる時はいつだって母さんが寂しい時だ。婆ちゃんが、余命をきられてうちに来た時もそう言った。「もう、さっさと向こうに帰りなさいよ!いつまでも、ここにいないで」って言った。だけど、婆ちゃんが帰った後、母さんは子供のように泣いたんだ。


理一:「わかったよ!おやすみ、母さん。おやすみ、理乃」


母:「はいはい、もう行きなさい」


母さんは、僕の後ろを歩いてついてくる。


理一:「おやすみ」


パタンと扉が閉まった瞬間だった。


母:「あーー」


母さんが泣き崩れる声がしていた。僕は、気にしないように二階に上がる。二階は、3つ部屋がある。階段を上がってすぐは、母さんと父さんの寝室だ。


父:「理一ぃぃぃー」


通りすぎる時に、父さんの声が聞こえてきた。僕は、聞こえないフリをして奥の自分の部屋に入って扉を閉めた。僕は、親不孝ものだ。何て、最低な子供なんだ。机の上に置いていたオルゴールは、何故か元通りに戻っていた。僕は、オルゴールを手に取る。


こんな人生なんて、簡単に捨てれると思っていた。なのに、今になって悲しくて堪らない。

でもね、やっぱり、僕は蒼と結婚出来る世界に行きたいんだ。

それを、諦めるなんて出来ない。


だって、蒼が僕の頬にキスをしてくれたり…。でも、母さんと父さんと理乃と別れたくない。


今になって、田宮さんの言葉の意味がわかった。僕は、この世界に僕がいるならいいじゃないなんて軽い気持ちだった。だけど、母さんと父さんは僕じゃないのをちゃんとわかっていて…。二人にとって、僕の姿をした知らない他人と過ごす事がどれ程、悲しくて辛い事なのかを初めて知った。


理一:「どうしたら、いいんだよ」


頭を掻いて、ベッドに横になった。


僕の事だけを考えてくれる二人を僕は捨てるんだ。

蒼と一緒になる為に…。

蒼と結婚したい為に…。


理一:「母さん、父さん、ごめんなさい」


僕は、母さんからもらった指輪を指にはめる。


理一:「悪い子供で、ごめんなさい」


泣きながら、その指輪を見つめる。いつか、必ず二人に会いに来れるように僕、頑張るから…。二人の想いをしっかりと受け止めた。僕は、別世界むこうへ行くよ!もう、迷いは消えていた。

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