父とのお風呂

理一:「お腹いっぱい」


母:「少し休憩したらお風呂沸かしてあげるから」


理一:「ありがとう、母さん」


母さんは、食器を下げていく。父さんと理乃は、ソファーの所に行ってテレビを見に行く。僕は、それを見つめるのが日課だった。こういうのが、なくなってしまうんだ。そう思うと涙が流れてくる。


母:「お風呂沸かしてくるわね」


母さんは、さりげなくティッシュを置いていなくなった。こんなにも、愛されていた事を別の世界に行く事がわかってから気づくなんて…。


母:「父さん、お風呂沸かしたから」


父:「はいはい!理乃、好きなの見なさい」


理乃:「はーい」


父さんは、立ち上がって僕の所にやってきた。


父:「お風呂が沸くまで、髪の毛でも洗ってやるから行こうか」


理一:「うん」


父さんは、母さんからお水をもらって飲んだ。僕も、母さんに渡されてお水を飲んだ。後ろから歩く。父の背中が、こんなに小さかったっけ?と思ってしまった。


洗面所で、裸になって一緒にお風呂に入る。


父:「理一、髪の毛洗ってやるから座りなさい」


そう言われて、風呂椅子に腰かける。


父:「最後にお風呂に入ったのは、5年生だった!父さんは、まだ入りたかったんだけどな!理一が、裸を見るのも見られるのも恥ずかしいと言い出してな!父さん、理一は皆と違うって気づいたんだ」


ザァーとシャワーで髪を濡らされていく。父さんの体にはりがない事に気づいた。


理一:「ごめんね、父さん」


父:「謝らなくていい!父さんは、ずっと知ってたんだ!理一が、死にたいって思ってるの」


シャカシャカと髪を泡立てて洗われる。目に泡が入ったわけじゃないのに染みてきて涙が流れていく。


父:「あれは、中学一年生の頃だったなー。父さんが、朝早く洗面所で顔を洗ってると涙で真っ赤に腫れた目を擦りながら理一が現れた。おはようって言ってから、見えないようにしていた。父さん、その時に蒼(あお)君と何かあったんだなって気づいた」


父さんは、シャワーを優しく当てながら、シャンプーを流してくれる。そして、リンスを優しく毛先につけてくれる。


父:「この世界は、理一に優しくないんだなーって気づいたんだ」


そう言った、父さんの顔は涙が流れている。


父:「あの日から、父さんはご先祖様や神様にお願いしに行った。理一がどうか笑って生きていける世界に連れていってあげてくれませんか?ってな」


ポタポタと父さんの涙がお風呂場の床に落ちていく。


父:「母さんにも話した!そして、二人で何度も何度もお願いした」


理一:「父さん」


父さんの顔を見つめながら、僕も泣いていた。


父:「その世界は、理一が堂々と胸を張って笑って生きていける場所なんだろ?」


僕は、父さんから目をそらさないように頷く。

父さんは、僕の涙を優しく大きな手で拭ってくれる。

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