最後の夕食

母:「もう、いいでしょ?父さん」


母さんは、父さんの肩を叩いた。


父:「いつか、理一。会いに来てくれるか?」


母:「無理言わないの」


理一:「出来るなら、やってみるよ」


父:「約束な!」


父さんは、涙を拭って笑った。今になって、田宮さんが言った言葉の重みに気づいた。全部捨てる。そんなの簡単だと思っていた。


理乃:「おかえりー。お腹空いた」


母:「食べようか!理一、手伝って」


理一:「はい」


僕は、母さんとキッチンに行く。母さんは、フランスパンを切り始める。


母:「15歳って、もうおとなよねー。だって、今は18歳で成人でしょ?母さんの時なら、まだ子供だってお祖母ちゃんに言われてた歳よ」


僕は、お皿を四枚取る。母さんは、フランスパンをそのお皿に入れる。


母:「母さんのワガママ聞いてくれる?」


理一:「何?」


母:「理一のウェディングドレス姿!見れたら、最高だなーって」


理一:「母さん」


母:「見せて、大丈夫ならよ!ほら、持って行って」


理一:「うん」


僕は、パンを入れたお皿をトレーに載せてダイニングに持って行く。


父:「理一、お酌してくれるか?」


理一:「勿論だよ」


父:「ありがとな」


僕は、父さんに笑ってから母さんの所に戻った。母さんは、シチューを丸い形の器に注いでいた。


母:「理乃じゃなくて、理一を嫁に出すとはねー。感慨深いわね!こんな小さかったのにねー」


母さんは、そう言いながらトレーに器を置いてくれる。僕は、シチューを持っていく。


父:「次、来る時にビール持ってきてくれ」


理一:「わかった」


僕は、シチューを置いて母さんの所に戻った。母さんは、カトラリーセットとサラダを並べる。


母:「はい、ビールとコップ。母さんが、これ持ってくから」


理一:「ありがとう」


僕は、母さんからビールとコップを受け取って父さんに持ってきた。席につくと、父さんにビールを注ぐ。


父:「おっとっと!ありがとう、ありがとう!二十歳の理一とこうやってお酒が飲みたかったなー」


理乃:「お兄ちゃん、死んじゃうの?」


母:「馬鹿!そんなわけあるわけないでしょ!」


母さんが、やってきてサラダを並べる。


理乃:「ごめんなさい」


母:「父さんが悪いのよ!変な事言うから」


父:「ごめん、ごめん。理乃」


そう言って、父さんは隣にいる理乃の頭を撫でていた。


母:「温かいうちに食べましょう」


全員:『いただきまーす』


こうして家族で囲む、最後の夕食が始まった。僕は、この場所を捨てて…。向こうにいるそうの元へ行くんだ。


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