花びら

僕は、窓を閉めた。手に置かれた花びらを見つめる。コスモスの花びらだ。さっきのオルゴールを取り出した。やっぱり、夢じゃなかったんだ。


理一:「帰りたい、帰りたい。あっちが、よかった」


泣きながら、ネジ巻きをはめようとするけど、ポッキリ折れていた。


でも、母さんが…。僕は、一階に降りた。


母:「理一、起きたの?」 


理一:「うん」


母:「今日は、理一が好きなシチューだよ!シーフードの」


理一:「うん」


僕は、母さんに近づいた。


理一:「あのね、母さん」


母:「好きな人とそっちなら結ばれる?」


理一:「えっ?」


母:「昨夜の理一と、君は別人でしょ?」


理一:「母さん……」


母さんは、シチューを混ぜるのをやめて僕に向き合った。


母:「蒼君が好きなんでしょ?」


理一:「知ってたの?」


母:「当たり前でしょ!15年もあんたの母親やってるんだから」


理一:「僕…」


母:「あのオルゴールの話、本当だったんだね」


母さんは、懐かしそうに目を細めた。


理一:「知ってるの?」


母:「うん!同級生のゆりかちゃんが、愛子ちゃんが大好きだった。それで、よく違う世界の話をしてくれたの。そっちの世界では、ゆりかちゃんは愛子ちゃんと堂々と付き合えるって」


理一:「それで?」


母:「ゆりかちゃんは、その世界に行ったのかな?自殺しちゃった」


理一:「そんな」


母:「でも、母さんはそっちの世界で生きてるって信じてるから…。だから、理一も行っていいよ」


母さんは、僕の手を握りしめる。


母:「そっちの世界なら、蒼君と付き合えるんでしょ?ごめんね。女の子に産んであげられなくて」


理一:「ううん」


涙がボロボロ流れ落ちる。


母:「ねぇー。もし、その世界で大空ゆかりちゃんを見つけたら、母さんにこっそり教えてよ」


理一:「どうやって?」


母:「うーん。そうだなー。外の物干しに、理一が好きな花柄のスカーフ干してよ」


それは、僕が5歳の頃に母が買ってくれたものだった。


理一:「わかった」


母さんは、スカーフをねだった僕に仕方ないなーと買ってくれたんだ。


母:「母さん、理一が何処に居ても応援してるからね!幸せになりなさいよ」


理一:「ごめんね、ワガママ言って」


母:「馬鹿ね!心配しなくたって、こっちにもちゃんと理一はいるから」


理一:「僕、ワガママだよね!家族より、蒼を取るなんて」


母さんは、僕をギューっと抱き締める。


母:「理一、親なんてね!いつか、死んじゃうのよ。理一より先なんだから…。だからね、捨てていいの。何も考えずに理一は、蒼君と幸せになりなさい」


その言葉に、僕は泣いていた。本当は、母さんと父さんと理乃と暮らしたかった。だけど、それよりも僕は蒼が大好きなんだ。

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