広がる映像

理一:「何、これ?」


僕は、驚いて蒼を見つめる。


蒼:「魔法使いになったみたいだろ?」


そう言って、掌に隠し持った小さなライトのようなものを見せてくる。


理一:「これ何?」


まるで、猫が遊んでそうな掌サイズのライトだ。


蒼:「脳内映写機だよ!ほら、こないだ治験者募集してたから応募したら当たったって話しただろ?」


理一:「あー、そうだったね」


知らないのに、そう言って僕は笑った。


蒼:「これは、俺の記憶を映し出してるんだよ」


そう言って、蒼は僕の腰をさらに自分の元に引き寄せる。


蒼:「ほら、見て!理々花がやってきた」


理一:「ほんとだ」


蒼:「俺は、一目惚れだったんだよ!どうやって声をかけようか迷ってたんだ。そしたら、ほらあっくんが声をかけてくれてね!それで、こうやって付き合えたわけだよ」


理一:「そうだったね」


目の前の映像で、蒼があっくんと呼んだ人にあの子に声をかけたいと繰り返し言ってるのが見える。それだけで、胸が詰まって涙が流れてくる。蒼が僕を愛してるなんて!そんな夢みたいな事があるの?


理一:「愛してる」


僕が小さな声で呟いた言葉を蒼は聞き逃さなかった。


蒼:「愛してる」


そう言うと、僕を自分の方に向ける。


蒼:「早く結婚して!理々花と一つになりたい!この意味わかるよね?」


僕は、蒼に頷いた。


蒼:「キスしようか?」


理一:「えっ?」


蒼:「頬にだけどねー。口にするのは、結婚式でしか出来ないだろう?でも、俺は理々花が欲しいんだよー」


理一:「いいよ」


蒼は、僕の頬にチュッとキスをしてくれる。


何、この世界線。


何、ここ。


帰りたくない。


絶対に帰りたくない。


蒼:「あー、父さんの手伝い頼まれてたんだ!じゃあ、理々花、帰ろうか」


理一:「うん」


蒼は、僕の手を優しく握りしめてくれる。


並んで歩く。


幸せが胸を締め付けてくる。


何度も何度も、涙が流れてくる。


こうしたかった。


ずっと、こうされたかった。


僕は、大人になって妥協して誰かとファーストキスをして、適当に初めてを捧げて、そこそこ好きになれるかもって人の傍にいるんだって思ってた。


なのに、蒼と全部出来るなんて…。


あんな事も、こんな事も、全部、全部、全部


この世界の蒼とするんだ!


蒼:「理々花、また泣いてる?」


理一:「ごめんね!何か、涙腺が今日は弱いみたい」


蒼:「マリッジブルーになってるんだよね?さっちゃんが、なったから聞いたよ!大丈夫、大丈夫。幸せな事しかおきないよ」


そう言って、蒼は僕の頭を優しく撫で撫でする。


蒼:「両親といれる間は、ゆっくり過ごさなくちゃね!じゃあ、また明日ね」


チュッ、また頬にキスをしてくれる。どうやら、僕の家らしい。


理一:「じゃあね」


蒼:「うん」


蒼が小さくなるまで、僕はずっとずっと見つめ続けていた。

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