第11話 あとで折檻
「風の精霊にお願いするんだよ。木の葉を浮かしてくださいって」
「かぜのせーれー?」
「そう、君にもいるからやってごらん」
多分これで精霊に頼めば、木の葉を浮かせられるはずだ。俺の場合はできているわけだし。
彼女は目を閉じて、星に願いを載せるかのように舌足らずな口調で言った。
「かぜのせーれーさま、このはをうかしてください」
すると、先ほどまで遊んでいた三本足のカラスがナナの方をいったん見て、そしてプイっと顔をそらした。
ええ…。精霊助けてくれるんちゃうん? なんでだろう。
反応していたから、この精霊は那奈の声を聞いてはいるんだよな。けどしてくれない。
頼み方が悪かったか、何かが悪かったか。
霊力を渡さないと無理なのかな?
「かぜのせいれいさま、このはをうかしてください」
ナナが再び言うが、カラスは反応しなかった。他の鷹やゴブリンも反応しない。
何故ダメなんだろう。よくわからないな。
「ニーラ・ヤーラ、手伝ってあげれる?」
やるとできるよといった手前、できないのは悲しいので手伝うことにした。
ニーラ・ヤーラ達はうなずくと、シュタタっと駆けてカラスを両サイドから持ち上げた。
カラスは何事かと喚いているが、ニーラ・ヤーラ達は気にせずにカラスを木の葉の下へもっていき、そして上へと吹き飛ばした。
カラスがカーではなくギョエエエエと泣き叫びながら上へと吹っ飛び、そしてカラスの上に載っていた木の葉もちょろっと持ち上がった。
「できた!」
「…そうだね」
ちゃうねん。手伝う方法がちゃうねん。誰がそんな風に手伝えゆうたんや。というかそれ手伝いじゃなくていじめやぞ。俺悲しいぞ。
普通精霊の力で何かしない? 精霊の力って筋力なの?そうなの?
カラスは再びギョエエエエと叫びながらナナの頭の上に落ちてきた。そして息荒くして目を丸くしていた。
ニーラ・ヤーラ、あとで折檻やな。
俺の雰囲気を察したのか、ニーラ・ヤーラ達はびくっとして何やら文句を言っていた。
いやいや、これはあかんよ。
しかし、これ下手に手伝わないほうがよかったかなぁ。手伝い方が予想外すぎて、結果が読めない。
精霊は自分の考えで行動するから、そこら辺を教えないとダメなんだろうなぁ。
たまにやってくる怪物は今まで精霊にまかせっきりで倒してきたから、そこら辺の指示とかもしといたほうがよかっただろうか。というか、ユリカが使っていたような魔法?を使っているところあんまし見たことないかも。教えないとダメなのかな。
「どうしたの?」
俺たちの様子にかぐや母さんが興味津々で話しかけてきた。
「このはをうかしたの!」
「浮かした? …精霊術師の子はもうそういうことができるのですか?」
「いいえ、霊力が少ない子供の時にはとても。触媒やを用いたり、環境が良ければできるでしょうが…。しかし今のは…」
かぐやの方はそうでもないらしいが、凪麦は俺たちが行ったことをしっかりと見ていたらしい。
困惑した様子で那奈と俺を見ていた。
「父さん! ういた!」
那奈が父親に興奮冷めやらぬ様子でいう。一度スイッチが入る前とは全然様子が違うな。
「ああ、浮いたね。ただ、無暗に浮かせてはだめだよ」
「ええ! なんで!」
那奈が驚いたように言う。これは何度も試したそうだ。子供は一度はまると飽きるまで一日中やるしな。
「精霊も疲れるからね。精霊が疲れちゃうと、いざというときに助けてくれないから」
「…助けないのですか?」
俺が代わりに返答する。精霊が疲れるとか、そんなことユリカは言っていたかな…。
ひょっとしたら俺と俺以外で状況が違うのかな?
「はい、ですので精霊術を学ぶ前は精霊に命令してはいけません」
「わかりました」
「ええー」
さっきみたいな精霊術の感動をもう一度やりたいのか、那奈は残念そうに言った。これはやっちゃったか?
頼みすぎると精霊が助けてくれなくなるとか怖すぎる。あの怪物を追い払ってくれなくなるということか?
…下手にほかの精霊にかかわるのはやめよう。それで相手に何か不都合なことが起きるのはちょっと勘弁だ。
ただ、自分のことだったらいいだろう。俺の精霊はお願いを何回かしても問題ないほどになっているし、力も見せてかないといけないしな。
ナナの精霊の様子を見るとカラスはバテたのか髪の中に隠れていて、それを鷹とゴブリンの精霊がなだめていた。3匹はすごい仲よさそうだな。
…大丈夫かなあれ。
「そろそろ儀式の場所に移動の時間ですか。 行きましょう」
もし彼女の精霊が動かなくなったらひとまずユリカに聞いてみて何とかしよう。
本館を歩いているときにかぐやが聞いてきた。
「さっきの、最初の木の葉を浮かせたことは自由がやったの?」
ああ、母親には精霊と話していることはばれてるのだから、隠しても意味ないか。
それに、先ほどは俺を唯一守ってくれた人だ。そんな人に対して誠実でありたい。
正直に話そう。
「はい。精霊に頼みました。…ダメでしたか?」
「ううん。私はあなたが立派な精霊術師になれそうでうれしいわ」
母は褒めた。というか、この人は可愛がりが趣味みたいになっていて、いつも俺に対してはべた褒めだ。
…これになれるとまずいな。絶対に調子に乗る。
またなんかやっちゃいました?、とか言って大惨事引き起こしそう。
そうならないように気を引き締めねば。
そして次の場所、風間山のふもとから少し登ったところにあるにある精霊の輪へと向かった。
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