第10話 本館見学


それから俺たちは本館を見て回った。

本館は二階建てで非常に広く、子供がかくれんぼしたら何回かに一階は遭難しそうな場所だった。

毎年何人かなくなってないよな。大丈夫だよな?


他には多くの人を招くためのホールやその食事を提供できるほど大きなキッチン、それに図書室もあった。


図書室は廊下から見える範囲ではそこまで大きなものではなく、現代なら本好きな個人が持つ部屋といったところの大きさだ。図書室といったが豪勢な書斎といったほうが正しいかもしれない。


それでも俺は図書室を初めて見た時、思わず駆けだして中に入ろうとした。

図書室というのは英知の塊。ここで異世界のことを知りまくって世界を先取りするのだ。


意気揚々として入ろうとして、そして止められた。止めたのは凪麦だ。


「ここはまだ入ってはいけません。自由殿にははやい」

「なんで?」


俺は率直に聞いた。ただ、そのあとを継いだのは母親だった。

気づいたら母親も俺の手をしっかりと握って止めていた。母親もダメだと思っていたらしい。

何故だ、母よ。この世の英知が目の前にあるというのに。


「やはり子供は入れませんか?」

「はい。本を壊す可能性がありますからね」

「ああ、やはり。私の実家の界知家でもありました。もともと子供は禁止だったのですが、本が好きな子が黙って忍び込みましてね。そして本を読んでいる最中に熱中して魔術を使ってしまい、図書室を燃やして台無しにしたことがあったんです。それ以来黙って入ったら親がその本の何倍もの金を払うという決まりになりまして」


ええ…。熱中して本を燃やすってめっちゃ怖いやん。

くそう。そういうのがあるから子供はだめなのか。

けど俺はそんなことしないよ…。


「風間遊家も似たようなものですよ。本をバラバラにしたりね」

「どこも本が貴重というのは同じですね」

「ええ」


畜生・・・。まぁ、どっちにしろ本を手にとっても文字はまだ読めないし、意味ないか。

今度の楽しみにしよう…。


そう思って廊下に戻ろうとしたら精霊たちが見えた。


って、ああ! ダメだ精霊達! 戻ってきなさい!


精霊たちは俺が意気揚々として入ろうとしたので、先に入ったらしい。本を触ったり、備え付けられている紙やペンに興味津々だ。


このままでは本当に何かを起こしてしまい、俺がその責任になってしまう。本を落としたりちょっとしたいたずらぐらいだったらすでにできるのだ。

その場合俺が図書室入りが遠く離れてしまうぞ。やばい。


「わかりました。また今度にします」

「はい」


俺は戻ってこいという意思を込めてそういうと、精霊達は俺の意をくんだのかすぐに帰ってきた。


…最近、いろいろと俺の言うことを素直に聞くようになったが、俺の思いにも敏感になり始めたな。

この調子だといずれは思っただけで精霊を動かすとかできそうだ。




その後、後に俺とかぐやに与えられる個室も見に行った。

個室といっても親と一緒だからか家族部屋か。父親は来ないらしいが。


部屋の大きさは学校の教室よりちょっと広いかなってくらい。

さすが貴族、豪勢だ。


ただ部屋の準備はまだできていないらしく、最低限のものが備え付けられているといった感じ。

これでも住めるが、貴族ならテーブルとかティーセットとかあってもおかしくない。


窓が開いていたので、掃除した後の換気の最中といった感じだ。

部屋の物の移動は午後の儀式の俺たちがいない間に行われるらしい。


まぁ、先ほどの加護検めの儀を見る限り、俺が今日ここに入るのかどうかもわからなかったからな。そりゃそうなるか。


ここで、しばらく時間をつぶすらしい。何もないということで子供が何か壊す心配がないからか。

親は親同士で話すから、子供は子供同士で遊びなさいと言われた。


とりあえず、子供同士仲良くさせたいのだろう。俺は那奈に声をかける。


「いこう」

「…」


こくりとうなずいてついてきた。

無口系女子らしい。いやただ単に人見知りか。3歳だとあり得るな。


しかし、遊ぶ。遊ぶって…。

子供って遊ぶとき何するんだ?


子供といえばおもちゃという感じだが、おもちゃなんてないし。

あたりを見渡してもそのようなものはなかった。というか、おもちゃってこの世界に存在するんだろうか? 積み木とかはあるかもしれないけれど。


昔のおもちゃといえばコマとかけん玉か。さすがに無いし無理だな、というかあってもできないし。

走り回る? 確かに子供はわけもなく走るものだけれど、走り回るのはなぁ。なんていうか、気が乗らない…。


考えていると、ナナがこちらをじっと見てきた。めちゃくちゃ見てる。

ひょっとして怒ってるのかこれ。私がここにいるのに何退屈させているのかと。


やばい、何かしないと。 何がいいかな。

そうだ。これを使おう。


俺は再び隣のカラスと一緒に遊んでいるニーラ・ヤーラにお願いした。


「ニーラ・ヤーラ、これを上に飛ばして」


俺は開けられた窓から入ってきた木の葉を上に浮かしてもらうように頼んだ。


「わ! 飛ばしすぎ!」


ニーラ・ヤーラは加減がわからなかったのか大きな風を起こして木の葉を天井までもっていった。風の強さに髪が乱れる。


ナナはこれに驚き、というか驚きすぎて口があんぐりとあいた顔で固まっている。

やりすぎたかもしれん。軽く浮かして楽しませるつもりだったのだけれど。


「今日は風が強いですねぇ。風の精霊様が喜んでいるのかもしれません」

「え、ええ…。そうですね」


後ろでめちゃくちゃ驚いている声がする。

母さんは暢気に言っているが、ひょっとしたら凪麦には精霊の力ってばれたかもしれない。


ばれてもいいかな? 隠しすぎてもそれは問題だし、そもそも隠し通せるとも思えない。それにユリカとの例の件もあるし、むしろこれからは広めていった方がいいかな。


ただ、話していることは黙っていよう。母親以外には。


「那奈もやってみる?」

「うん」


呆然としていたナナに尋ねるとうなずいた。

興味はあるようだ。よかった。


そして、那奈は木の葉を取って上に勢いよく放り投げた。


ちゃうねん、そうじゃないねん。

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