第7話 加護検めの儀
おそらく俺が3歳になったころのある日、俺の周辺は騒がしくなっていた。
「さぁさぁ、今日はあなたの特別な日ですからね」
そういって母親とメイド達は俺に普段着せている服とは違う服を用意した。
ハレの日に着るというか何か祝い事の日に着るというような服だ。
様式はどちらかというと東洋式ではなく西洋式だが。
「かあさま、今日は何の日なの?」
「それはね、あとのお楽しみ。ふふ、この服は今日のためにあつらえたのだから」
今日が何の日かはユリカに聞いたので知ってる。
この日は俺のお披露目の儀。
精霊術師の本家と分家の筆頭に初めて会う日でもある。
乳幼児の死亡率が高いこの世界では、貴族階級は子供が生まれた時にはお披露目を行わず、その子供が3歳になるときの何らかの儀式のときに合わせてお披露目を行う。それまでは身内だけが知っているといった感じだ。
そして、今回は近くにある風間山にいる精霊のユリカへ挨拶する時期なのでそれに合わせてのお披露目会だ。
ただ、俺は知らないふりをする。ユリカからの話から精霊と話せるのは俺一人、だから精霊と話していることは秘密にしなければならない。ユリカも精霊と話せることがどうなるかはわからないと言っていた。悪魔の子と言われる可能性もあるし、追放ものは嫌だからな。
「きれいな服です」
「でしょう! わざわざ母様の生まれの地から取り寄せた糸から作った服ですからね!」
なんていうか親ばか炸裂といった言葉が似合いそうなほどテンションが高い。そして俺はメイド達にてきぱきと服を着せられていく。
「まぁ! いいわぁ! 私のかわいい子がこんなにも立派になるなんて! なんて罪作りな子! これは将来女泣かせになるわ! 間違いない!」
と、嬉しそうに矢継ぎ早に言葉を言っている母親を見ると、ちょっと苦笑いになってしまった。
メイド達はそれをほほえましそうな目で見ている。
「ああ、ごめんなさいね。私ばっかし盛り上がっちゃって。 今日はあなたの日なのに」
そういって俺を見た後に、細かいところが気になるのかあっちこっちと触り始めた。
別に身だしなみが整っていないから何かあるというわけではないが、やはり子供の一生に一度の時には母親は頑張るものらしい。
「かぐや様、そろそろお時間です」
「そう、わかったわ。さぁ、行きましょう」
そういって母さんは俺の手を取った。
俺たちは別邸を出て本館へ向かう。
今まで俺が住んでいたのは赤子のために用意された代々使われている古い別邸だ。
赤子が住む場所は他の人と離さなければならないというのが精霊術師の決まりでもある。
だから本館はいつも遠くに見えるばかりで近づくこともできなかった。近づこうとするとメイドに止められる。
本館の方もなかなかの古さを感じる屋敷である。
どちらかというと西洋式の屋敷だ。
「今日はあそこに行けるのですか?」
俺は本館をさして言う。
「今日からあちらに住むのよ」
かぐやは嬉しそうにそういった。
行くのではなく住む。それが母のかぐやにとっては重要らしい。
まぁ、あちらに行くといってもあまり変わらないんだけどな、俺のやること。
俺は自分の肩や腰につかまっているニーラ・ヤーラやムサシ達、何十という精霊たちを見てそう思った。
うーん…やりすぎたかなぁ。さすがに精霊の数が多すぎる気がする。
本館に入り談話室のような場所に通される。
そこでは幾人もの人がいてテーブルを囲んで会話しながらお茶を飲んでいた。
「来たか。 座りなさい」
奥にいた一番歳を召した人が言った。あれが祖父だろうか。
深い緑色の髪を後ろで縛り、そしてひげも垂らしていた。
ゆったりとした東洋風の服を来ており、一見すると好々爺といった雰囲気だ。
そして精霊がいた。二体ほど。
この人の肩にはほんわかした表情を見せている緑色と青のマタンゴが二体野垂れかかっていた。大きさとしては中精霊くらいだろうか。赤ん坊に届かないくらいの大きさだ。
やはり、精霊術師は精霊を持つ。話通りだ。
「ほら、あちらよ」
俺は母親に案内されて、一番手前にある椅子に座った。
隣には少女が座っていた。
このタイミングで一緒だとすると、同い年かな?
これが幼馴染というものか。
ユリカから聞いた話だと分家との顔見せも兼ねているという感じだったし、この子は分家筋の子だろうか。
少女の頭に緑の光を持つ三本足のカラスと黄色の光を持つ鷹、そして赤色のゴブリンの小精霊がたたずんでいた。
3体とは。祖父で二体なのだから、この子は将来有望な子なのでは?
「む、白髪か…。いや少しは緑色の髪を持っておるな」
祖父っぽい人が言った。白髪だとまずいのかな?
俺の髪はもともとは黒っぽかったが、霊力を与えるにつき白に変化していった。
これもユリカは昔はいたけど最近はあまり見なくなったと言っていたから、ちょっと気になっていた。
精霊の言葉を話せる人間がいないからか、彼女は最近の人間世界の細かい機微まではわからないために、これがどういう意味を持つのかは不明だったのだ。
「緑髪ではないではないか。ふん、だから魔術師の家系の娘を迎えるのは嫌だったのだ。いくら魔力量が豊富とはいえな。以前の子も…」
「風告(かこく)様!」
そう批判したのは、祖父と思しき人の近くに座っていた男性だった。
母親に対する言い方からすると彼が父親みたいだ…。
父親の腰には濃い緑色の光を持つ意地の悪そうな顔を持つ猫がいた。こちらの大きさは中精霊に届かないくらいの小精霊くらいだろうか。
父親との初対面がこれかぁ…。
なんか、なんかなぁ。
そりゃわかる。誰とでも仲良くなれるなんて言葉を吐くつもりはない。
けど、もう少し仲良くなれそうな人間がよかったなぁ。
いきなり批判の言葉を出す人は嫌だ。
ずっと一緒にいるであろう人が仲良くなれる気0な人は悲しい。
俺が気落ちしていると見たのか、かぐやが励ますように言った。
「だいじょうぶよ。ほら、ここにちゃんと緑髪あるからね!」
かぐやは俺の髪の先あたりにある緑色の部分を触っていった。
俺は見渡すと、確かに緑色の髪を持った人がほとんどだった。母親を除いて。
母親は夜空を思わせるきれいな黒髪だ。
ただ、この部屋の中にいる人の中だと彼女の黒髪には違和感がある。
先ほど父親が言っていた魔術師の家系という言葉から、家柄が髪色に出る世界なんだろうな。
「ふむ、まぁいいだろう。かぐやも座りなさい。では、加護検めの儀を始める。霊石をこちらへ」
そういうと、メイド達が布に包まれた手のひら大の石を持ってきて、目の前に置いた。
「まずは凪麦(なばく)の子から」
そういうと、隣に座っていた女の子の母親と思しき人が女の子に触るのを促した。
女の子は恐る恐る霊石に触ると、緑色の光に黄色い光が少し混じったような色が霊石がうっすらと出た。
彼女が持つ精霊の光と同じだな。
「うむ、緑色をもつ光だ。確かに加護はあるようだな。この子は精霊術師の子として迎えられる」
祖父がそういうと女の子の両親は安心したかのようにほっとした様子を見せた。
…向こうは愛されてそうやな。
こちらの両親を見ると、俺の父親は興味なさそうに、母親はめちゃくちゃハラハラしてそうな顔でこちらを見ていた。
お母さん落ち着て。
「では次、風告(カコク)の子」
「がんばって」
母親に励まされながら、俺は霊石を触った。
指が触れた瞬間、霊力が吸い取られていくのを感じる。
霊力が吸い取られるともに、霊石は先ほどの光とは異なる白い光をだした。
「白…か」
「白とは聞いたことがない。やはりだめか…」
祖父と父がそろって言った。
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