第6話 君はユリカ、俺はメクソ
10日ぐらい後、再び精霊少女がやってきた。
「食べに来たよ~」
「あぅー」
挨拶を返すとクスリと笑ってあたりを見渡した。
山の主と言っていたが、気軽なあいさつをしても大丈夫らしい。
「ああ、また並ぶのね…」
彼女が来た時にはすでに餌付けを始めていたために精霊の行列が出来ていた。
彼女はそれを見てすこしうんざりしたような表情を見せた。
…この分だと今日も霊力を食べれそうにない、それを彼女も思ったのだろう。
さすがにそれはかわいそうだ。
霊力は日に日に増えつつあるが、それでも一気に増えるということはないため、無理をすれば彼女に霊力を与えられるというものではない。
俺は指先に緑色の霊力を出して、精霊少女に差し出した。
「あげる」
「いいの?」
と、彼女は俺とムサシを見た。
ムサシも食べれないのはかわいそうだと思ったのかうなずいた。
「やった! ありがとう」
と言って霊力をつかんでその霊力をまじまじと見る。
「前見た時も思ったけど、霊力の種類を分けられるなんて器用ね。ここ最近はそれできる人いないのよ」
そういいながら指先に出した霊力をつかみ飴玉のように食べる。
「ああ、美味しい。久しぶりにこういうの食べたわ。うーん…」
といって、物欲しそうな目でまた俺を見ている。まだ食べたりないらしい。
仕方ない。俺は試しにと赤色の霊力を出した。
小精霊たちは自分以外の光を食べないのだが、彼女だったら食べられるかもしれない。
それに無理なら、話せる相手なのだからその理由もわかるかも。
「お~。久しぶりにそれも食べるなぁ。昔はいろんな霊力出せる人はそれなりにいてねぇ」
と昔を思い出すおばあちゃんみたいなことを言いながら、赤色の霊力を口の中で転がしながら食べる。
「辛い! けど美味しい!」
そういって、足をじたばたさせながらも美味しそうな顔で食べていた。
俺の赤い霊力は旨辛らしい。けど、緑色の光を持つ精霊少女は赤い光を食べれるのか。並んでいる精霊たちは自分の光以外は食べないのに。
「しょーせーれーはたべない」
「小精霊は自分の光以外の霊力を食べると消える恐れがあるからね。特にあなたくらいの霊力だと本当に精霊たちの命の危機だから」
まじか。せっかく仲良くなったのに親切心で出した霊力が精霊にとって毒物なんて…。
挙げなくてよかった。さすがに目の前で消えたらトラウマものだ。
精霊少女は食べ終わったのかもうひとつを催促してきた。
だが、それはムサシが精霊少女の足をけって認めなかった。
「いたっ! もうっ! いいじゃない! 私はたまにしか来れないのよ! 最近は忙しいし!」
と言って不満を表明したが、ムサシは認めなかった。精霊達も精霊少女に対抗するかのようにブーイングをした。精霊少女はあきらめたかのようにその場に座った。
俺は精霊達への餌付けを再開する。ブーイングはやんで一人一人のわくわくした感情が伝わってくる。
そういえば、この精霊少女の名前はなんていうのだろう。
「なまえ、なに?」
「名乗ってなかったかしら…? 私の名前はユリカ。風に遊ぶ狸と書いて遊狸風よ。よろしくね」
「ユリカ」
いい名前やなぁ。名前のままに確かに自由奔放に遊びそうな狸な感じ出てるし、語呂もいいし。
それに対して俺はメクソ。君はユリカ、俺はメクソ。この差は何だ。
いやあれは幼名。いずれ変わるのだ。だから問題ない!
「ふふ」
「?」
「いや、名前を呼ばれるのなんて久しぶりだと思って。精霊同士はあんまし名前で呼ばないし、最近の風間遊家は精霊と言葉を話せるほどの精霊術師はいないから」
「そうなんだ、いいなまえ」
「ありがとう!」
ユリカという名前をほめると嬉しそうに耳が揺れた。ひょっとしたら尻尾も揺れてるのかな? 見えないけどついていてもおかしくない、狸だし。
それにしても俺の家、大丈夫なんかな。前回も精霊少女のユリカは「一時はどうなることかと思った」と言っていたから、傾いている家っぽいぞこれ。
貴族だから安泰だと思っていたけれど、屋台骨傾いていたでゴザル。
ぼんやりしていたらその傾きで俺も潰されるかもしれない。
だが逆に言えば、そんな家なら優秀な精霊術師を見放したり追い出したりはしないだろう。
つまりは俺が頑張ればなんとかなるという話か。
それに俺を溺愛している母親やメイド達もいるから、貴族でよくある内部闘争みたいなのがあっても味方がいないというわけじゃない。
多分大丈夫だと思う。多分。
「ああ、そろそろ行かないと。じゃあね」
「ばいばい、ユリカ」
忙しいらしい。さすがは山の主だ。
また今度な。
それからもたびたびユリカは俺の元を訪れた。一週間に一度とかそれくらいの頻度だけど。
「本当はまだ幼名の子のところに来ちゃいけないんだけどねぇ。まぁ、あなただったら大丈夫だわ」
と言いつつも、結局は来るようだ。
それだけ俺の霊力が魅力らしい。あと、久しぶりに話せる相手がうれしいとも言っていた。
話せる相手がいないのは寂しいのはわかる。母親とちょっと話せるようになったが、それでも幼児のふりをしながら話すのは大変なのだ。
活舌がよくなってきて大人のように話せるようになってきても、話してはいない。
もしそれで悪魔の子と見なされたら嫌だからだ。
精霊に愛される『加護の子』がいるのだから悪魔の子とするような風習があってもおかしくない。
「なんで、よーみょーのもとにきちゃだめ?」
「あなたのように幼い今の時期は精霊に気に入られるための大事な時期だからね。赤子はたびたび魔力を無意識に発散させるのだけれど、精霊にとってその赤子の魔力は霊力に変化させやすくて、その変化させた霊力を食べるの。そして精霊に気に入られて度々精霊が霊力を食べると、精霊術師の家系の子はその精霊に応じた霊力に変換させるようになる。そうなれば、赤子は成長しても精霊のお気に入りになって精霊術、まあ要するに私たちの助けを借りやすくなるのよ」
「せーれー、助けてくれる?」
「あなたならまず助けてくれるわ。なんたって器用にいろんな霊力に変換できるのだから。多くの小精霊はもうすでにあなたの霊力にゾッコンだからね。この子たちが霊力のために列を並ぶなんてまずないくらいよ」
ユリカは精霊の列を指さしながら言った。みんな確かに俺に夢中っぽい。
というかゾッコンって言葉久しぶりに聞いた。
「多分この調子ならあなたは相当な精霊術師になること間違いない。ひょっとしたら昔でも見なかったほどの精霊術師になるかもね」
そこまでかぁ。なんか照れるなぁ・・・。いやこんな風におだてられて努力せずに結局大したことない奴なんていくらでもいる。気を引き締めよう。
引き締めたところでできることなんて餌付けするくらいだけれど。
霊力配り赤ちゃんだ。
「ユリカもたすける?」
「ええ! あなたならいくらでも助けてあげるわ! …まぁ、この山近辺限定だけれど。私は山からあまり遠くまではいけないから」
すると、精霊たちがまたブーイングしだした。さっきよりも必死な感じがする。
どうしたんだろう。
「大丈夫大丈夫。あなたたちの隣人はとらないわ」
「りんじん?」
「精霊に気に入られた人のことね。この子たちは警戒してるのよ。私を毎回満足させるくらいに霊力注いでたら、あなたこの子たちに霊力与えられなくなるからね」
ああ、なるほど。そういうことか。
霊力云々いっているけれど、正直俺にとってはお菓子の奪い合いをしている子供にも見えた。
みんな仲良くね。
ああ、そろそろ眠くなってきた。お疲れ。
「やっぱしまだ子供ね。おやすみ」
それからもユリカとのはたびたび会い、その度に精霊に纏わるいろんなことを教えてもらった。
そして俺が3歳になったときに、次のイベントが待っていた。
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