第8話 精霊術師の子

白。


これが俺の霊力の色だ。


この部屋にきて分かったが、髪の色と霊力の色はある程度一致する。

そして、隣にいる子の状況からは霊石の光はその人が持つ精霊の色に一致している。


つまり、精霊の光が霊石の光となるわけだ。元々霊石もそういった石なのだろう。


そして、彼らは緑色の光を求めている。

これは祖父や父が緑の精霊を持っていることからも明らかだろう。


ここら辺の精霊は比較的緑色の精霊が多い。

これはおそらくユリカに関係しているのだろう。

ユリカは自身のことを山の主と言っていて、そしてユリカ自身が緑色の光を持つ。


そのユリカの属性に惹かれて、多くの緑色の精霊が集まるのだろう。

思えば、最初に俺のもとに集まってきたってきたのは緑色の光を持つエルフとダークエルフのニーラ・ヤーラだった。


そしてニーラ・ヤーラはたびたび訪れるユリカに懐いていたように思える。

なるほど、緑色の精霊は同じ色の精霊に惹かれるのだろう。


そして、この家にとってユリカとの色を合わせるというのは重要なのだろう。

ここら辺の守りは風間山の主のユリカ頼りらしいし。


「これは『加護の子』ではなく『幸運の子』であったか?」

「ぐ…。よもやまたも不出来な子を産むとは…」


祖父と父が言った。

父親はかぐやの顔を見るか見ないかの位置だ。


いま「またも」といったな。

…予想はしていたが、俺はかぐや母さんの一人目の子ではないらしい。

まぁ、昔の乳児の死亡率を思えば不思議じゃないんだけど。


それに加えてあのバケモノだ。あんなのに襲われたらそりゃ死ぬだろう。


「ふーむ。ではこの子は別の家に預けるとするか?」

「…やむをえませんな、魔力の方は問題なさそうです」

「候補はどこがあったか。かぐやの実家である界知家に戻すとするのもよいが」

「その話は別の日にでもよいのではないですか? 私の子の儀式の続きを」

「おまえは黙っていろ」


祖父と父ともう一人の凪麦で何やら俺の行き先を話し始めた。


俺を置いてけぼりにして。

…まるで家畜の出荷先を決めているようだな。…またか。




「待ってください! この子には精霊の加護はあります!」


不穏な話の中、母さんが立ち上がって反論する。いや、もはや絶叫に近い。

実際に加護はある。今だってニーラ・ヤーラが俺の髪をいじったりしている。


「だが、霊力光が白とはあまり聞いたことのない色だ。光の精霊などここらではまずいないしのう…。」


白の霊力を持つ天使のミカエルさんなら確かにいるけれど…。

この子は光なのかな。


そのミカエルさんは俺のひざ元でドラゴンのドラ吉を寝かしつけていた。

どこかこの子はほんわかお姉さんといった雰囲気なんだよな。

全身鎧を着ているから顔はわからないけれど。


「いいえ、そうではありません! 私はこの子が何度も精霊と会話しているのを見ています。 この子に精霊の加護がないわけがありません!」 


おう・・・。やっぱ聞かれてたのか、ユリカとの会話。

まぁ、そりゃ聞かれているよな、2年も精霊やユリカと交流すればどこかで聞かれてるだろう。


確かにたまーに、今何してたの?って聞かれてたんだよな。

けど俺は黙ってた。隠せるかなって。

無理だったみたいだけど。


だが母親のその言葉に父親の表情が渋くなった。


「見苦しいぞ…。 我らですら精霊は見えないのに、魔術師の家に生まれたお前に精霊の何がわかる。精霊と会話などするはずがなかろう。それに赤子は一人でも会話するものだろう? おおかたそれよ。 目の前に霊石の結果がある以上、今そんなことを根拠に出すな。それよりも次の話をしなければ…」


「次! 次ですって! 風告様はこの子を何だと」


これはまずい。俺が何もしていないと、どんどん話が進んでしまう。

それに、母親は俺を守ってくれている。彼女に孤軍奮闘させるのか、俺は。


これからのこと、そして俺の人生のことを考えるなら、ここは勇気を出さなければ。


今までの結果から予想できること。なら、俺にも彼女の望む結果を出せるはず。

何とはなしに、俺は緑色の霊力を手先に出して、再び霊石に触れた。


その瞬間、霊石はきれいな緑色の光を部屋中に放った。

明らかに同い年の彼女よりも強い光だ。


喧嘩をしていた二人と、祖父、それと分家の人達、メイド達は、みな俺の手元を見た。


「な…」


皆、言葉を失って緑色の光を見ていた。

さすがに光りすぎて眩しかったのでそっと霊石から手を放す。

光が静かにひいていった。


「母様、どうですか?」


ちょっとどや顔でいった。先ほどまでの喧騒が嘘のように静かにさせたのだ。これくらいの権利はあるだろう。


「…すごい! すごいわ! これならだれもが認める立派な精霊術師になれるわ!」


そういって、母親は俺に抱き着いてきた。

うんうん。やっぱ叫んでいる母よりもほめている母を見たい。


…ちょっとさっき喧嘩しているときの母親は若干夜叉のようだったんだよな。

あれは怖かった。


「ふーむ。このようなことがあるとは…」

「先ほどの白い光は何だったのだ…。それに今の光は…。」


祖父はひげを撫でながら霊石と俺をじっと見つめていた。今起こったことが信じられないのだろう。

まぁ、3歳でこんな霊力をいじれる人なんていないんじゃないかな。


父親は…よくわからない表情を浮かべていた。なんだろう。不満か嫉妬か。

先ほどまでの顔とは違う。


喜んでくれるならそれでいいが、ちょっと不気味だな。


「風告の子よ。もう一度触ってみなさい」

「はい」


そういってもう一度緑色の光を出した。大丈夫、ここで赤とかは出さない。

冗談にしてはリスクが高すぎる。やっぱお前の霊力おかしいから追放みたいな流れは勘弁だ。俺は順風満帆な人生を送りたいのだ。


緑色に光る霊石を見て、祖父は納得したようだ。


「よし、いいだろう。風告の子よ。おぬしを精霊術師の子として迎えよう」

「ありがとうございます」


俺が頭を軽く下げると、祖父は少し顔を崩した。



「ふむ。礼儀正しいいい子じゃな。愛されて育ったのだろう」

「ええ、この子は私の子ですから」


母親が自慢げに言った。


「そのようだな。凪麦もよいな?」


祖父はやれやれと言わんばかりの表情で母親のかぐやをみて、その後別の方向を見た。


祖父はおそらく分家筆頭と呼ばれていた家の父親である凪麦を見た。


「…は。元から異論はございません」

「ふん」


分家の凪麦はこちらを驚いた表情見ていたが、祖父から言われると姿勢を正した。

父親の風告が凪麦を睨みつけながら唸るようにいう。

…なんか軋轢でもあるのかな。


父親と母親の仲は悪そうで、そして本家と分家の仲も悪い。

こうなってくると好々爺といった感じの祖父も何か一物ありそうだ。


…大丈夫かな。この家。先行き不安だ…。


「では、新しく迎える精霊術師の子に命名を行わなければな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る